その人がやったんじゃありません

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 私は壁のコート掛けへ真直ぐ向かうと、上着を取って羽織った。   「パパ、どこ行くの?」  不安そうに訊ねる息子に、私は言う。 「人士、パパはちょっと旅行に行ってくる。家のことは家政婦の奥寺さんに頼んでおくから」 「パパ、ごめんなさい。怒ってるの?」  息子が叫んで駆け寄ってくる。気がつくと娘の杏奈も私のもとへ駆け寄ってきている。  私を見つめる真直ぐな目を見て思う。この目にウソはつけない。  私は一瞬目を閉じ、息を吸い込む。 「本当は」  目を開けると、私は二人に向かって言った。 「パパは悪いことをしたんだ。その罰を受けなくちゃならない」  二人はきょとん、とした顔で見守っている。私は玄関へ向かう。 「待って!」  人士が叫ぶ。 「僕も花火の罰を受けてない。パパといっしょに受けるよ!」  私はこみ上げてくる感情をぐっとこらえて振り返り、人士に言い聞かせる。 「人士、おまえの仕事は、宿題をきちんとやること。それと、杏奈の面倒をみることだ」  二人の頭にぽん、と手を置き、 「杏奈はお兄ちゃんと奥寺さんの言うことをよく聞くこと」  そう言って私は扉に手をかける。 「パパ、僕たちのことが嫌いになったの?」
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