その人がやったんじゃありません

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 その言葉に、私ははっとして振り返る。  二人の目からとうとう涙がこぼれだしている。 「そんなわけない。そんなわけないだろう」  私は屈みこんで二人の目を見つめ、言う。 「人士、杏奈、パパはお前たちが大好きだ」  ちいさな身体を順にぎゅっと抱きしめる。 「すこし帰りが遅くなるかもしれないけど、いい子にしているんだぞ」  こくり、とうなずく子供たち。私は二人に笑顔を見せ、家を出た。  扉に鍵をかける。かちり、と音がなる。  背中にかたい扉を感じながら大きくため息をつく。  それから前を向き、ぽつりと言う。 「自首なんてはじめてだから、ちゃんとできるか心配だな」  自分の声の響きが、案外さっぱりしているのに驚く。  捕まって逆にほっとするって、このことなのか……。 「その人じゃない。その人がやったんじゃありません」  私はそんなふうに練習しながら歩き始める。  雨は上がり、外の空気は静かに澄んでいた。    了
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