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「ヨーク!」
狼狽えるメンフィス。
対照的に落ち着き払ったジェファーソン。
メンフィスは、ヨークを正気に戻そうと、彼の頬を張るが効果がない。
「考えるな。言葉を持って往かれちまうぞ」
俺はメンフィスに声をかける。
グレイタウンでは、至極当然のことだが、ビギナーはそうもいかない。
「コーク、路上喫煙は禁止かね?」
「ご覧の通り、全面喫煙可能だよ」
俺は、わざと肩を竦めてみせる。
ジェファーソンは、懐から葉巻を取り出し、口に咥える。
蝋燐寸を建物の外壁に擦り付けて、着火した。
軽く空気を吸い込み、味を確かめる様に紫煙を吐き出す。
低温燃焼喫煙の紫煙を気付の様にヨークの顔面に吹きかける。
ヨークは、一頻り咽た後、正気を取り戻した。
「馬鹿みたいに口を開けて、灰色の雪を吸い込み過ぎるなよ」
「遅せえよ! 何なんだよ、この街は!」
苛立ち紛れに、路上の空き缶を蹴る。
……転がるはずだった。
灰色に染まった空き缶は既に金属ではなく、ただの灰だった。
保っていたカタチを失い、大気中の灰色に溶け込んでいく。
「なぁ、人もこうなるのかよ?」
「効果覿面だよ、特にヨークさんは。また考えてるだろ?」
「うっ!」
考えすぎると、言葉を見失うなんて、どんな無理ゲーだよ!
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