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明け
あー。かったるいし腰痛いのよね。犬が明け方までしつこいから。
田所紀子はそうボヤいたのだった。
紀子は、殆ど寝ずに赤坂御所近くの乃木神社で巫女のバイトに精を出していた。
巫女はそもそも清純であるとか、乃木神社に皇族がバイトしていいのか、とか色々あったのだが、去年の闇のゴールデンウィーク事件の際、近隣住民を守護するべく結界を張ったのがきっかけで、宮司との付き合いがあったのだった。
宮司に頭下げられちゃったから別にいいんだけどさ。お守り売ってるだけだし。
大体乃木神社って何よ。頑張ったのはまあ認めるけど、燃え盛る戦意で戦場がどうにかなるとか思ってるから、無策に突撃かまして五万人も戦死者出すのよ。
ただ、流石に紀子だって空気を読むというか、常識くらい持ち合わせている。
突撃するしか能のない、馬鹿を通り越してうんこみたいな脳味噌とか明治帝死んで後追いした女々しい夫婦とか、思っていても口に出せなかった。
大体何よどいつもこいつも。旅順が停滞して乃木さんちに石投げてたくせに、勝ったからって万歳三唱か。
ほぼ負け戦で満州に固執するから、ろくな賠償金も貰えず、蒋介石と毛沢東に無茶苦茶にされんのよ。
私等20万人も殺してないんだけど。
どうでもいいけど乃木神社には乃木さんの師匠の吉田松陰も祀られてるのよね。
結局大勢に滅ぼされるのよね。
乃木神社は負け犬を祀ってる神社って、何か日本的な気がする。
などと後ろ向きなことを考えていた。
原因は昨日一緒にいた彼氏にあったのかもしれない。
最初は良かった。それは間違いない。
紀子は勘解由小路ではなかった。
何日もノンストップで出来る訳がない。
要するに最後は鬱陶しかった。
延々と尻の匂いを嗅がれてやれやれってなった。
彼氏としては申し分ないのだが。特に腹筋が。
最後まで靜紀靜紀言っていた。あの犬っころは。
異世界の犬もこっちの犬もどっこいだわ。
あー。鬱陶しい。私の彼氏。
面倒になって、参拝客に背を向けて、背伸びをして拝殿の方を見やった。
そして、突如拝殿が爆裂し、紀子は形容し難い顔で固まった。
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