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「どうして本を食べることができないと思うの?」
「僕は本を食べられないから・・・」
「でも私は食べることができるわ。」
女が食いちぎった痕跡は いつのまにか消えていた。
「・・・嘘だ」
「どうして嘘だと思うの?」
「だってそんなのありえないじゃないか!」
「どうしてありえないと思うの?」
「だって・・・」
男は壁まで追い詰められて、へたり込む。女は男に目線を合わせて座る。
「でも、あなたの目の前で起こったことよ。」
女は手近な絵本を取り、そのカラフルな表紙を食べた。
「どうして目の前で起こったことを認めないの?」
「・・・信じられないよ・・・」
「でも、あなたの目の前で起こったことよ。」
無限ループに襲われるように 男は気分を害した。
「・・・君は異常だよ・・・」
「どうして異常だと思うの?」
「・・・君が今やっていることは・・・異常なんだよ・・・」
「それは誰が決めたの?」
女は濁りない目で問いかける。
「『異常』の定義は、どこかに存在するの?」
女は穏やかな声で問いかける。
「私が異常なら、あなたは正常なの?」
男は 何も答えられなかった。
女は男の頭を優しく撫でて、呟く。
「他の誰でもない・・・それはあなたが作り出したものなのよ。」
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