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――暗い……、まだ、夜――?
瞼が開いているのか閉じているのかわからないほど視界が暗い。真っ暗だ。
昨夜散々泣いたせいか、ひどく頭が痛かった。おまけに喉がカラカラに渇いている。
――水……、水が、欲しい。
誰かにそう伝えようとしても、呼気が喉に張りつくばかりで、声にならない。その上今度は体がミシミシと軋み出した。身じろぎする度ささくれた何かが肌に擦れて、痺れるような痛みが走る。
――ここはどこ? 他に誰もいないのか? 体が痛い。どうしてこんなに痛いんだろう? 頭の中に、いくつものクエスチョンマークが浮かぶ。このままじっとしていれば、誰かが助けにきてくれるだろうか。
物音一つしないこの場所では、鳥の囀りや葉擦れの音がひどく恋しかった。
――痛い。脚も腕も、どこもかしこも痛くて、頭がおかしくなりそうだ――!
「っ……、ぅ……」
唐突に込み上げてきた吐き気をどうにかやり過ごし、掠れた吐息を漏らす。涙の一滴でも流れれば少しは気分も晴れるかもしれないのに、干上がった体からは唾液すら出てこない。
その時、ガチャガチャと金属がぶつかり合うような音がした。やがて水を蹴る音と共に、何者かがこちらへ近づいてくる。
「なんだ、また飯を食ってやがらないのか。そんなんだから肉づきも悪いまんまで、いつまでも値が上がらねえんだよ」
苛ついたような男の声がして、体がガクンと揺れる。不意に空気が流れ、饐えた匂いが鼻をついた。
「さっさと出てこい。時間に遅れたらこっちまでとばっちりを食っちまうだろうが」
伸びてきた手によって、強引に体を「外」へと引きずり出される。暴力的な明かりに晒された途端、今まで押し込められていた、暗くて窮屈な闇の中に戻りたくなった。
「いやだ、嫌っ、た、たすけて……。中に戻して、おねがいだから……っ」
「いいぞ、そのまま口を開けていろ。どうせならお前も楽しい方がいいだろ?」
次の瞬間、待ち望んだ水が喉の奥に流れ込んできた。途中喉に何かが引っかかって噎せそうになるも、どうにか全部飲み下す。
「よしよし。すぐに楽になるからな。ハイになってりゃ朝までなんてあっという間だ」
さっきまで恐ろしかったはずの男の声が、縋りたくなるほど優しく耳に響いた。恐ろしさで震えていた体が、熱を持って疼き出す。
――すぐに終わる……。終わったら、またあの静かな自分だけの暗闇に戻れる……。
あの場所に戻れるのなら、自分はどんなことでもする。自分が自分でいられるのは、あの小さな檻の中だけなのだから。
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