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「離れていると寒いだろう? もっとこっちにおいで」 「うん」  オスカーの隣で横になり、すうっと息を吸い込む。芳しいベルガモットの香りに、波立っていた心が凪いでいく。まるで精神安定剤だ。 「ありがとう。あなたには本当に感謝してる。今の俺の頭じゃ恩返しの方法も思いつかないけど」 「恩返しなんて望んでないよ。君が元気で毎日笑ってさえいてくれればそれで十分だ」 「俺が笑ってさえいれば……」  その言葉をありがたいと思う反面、少し引っかかりを覚えた。オスカーの望みは記憶を取り戻した瑛人と、以前のように恋人同士として共に生きていくことじゃないのだろうか。  天井を見上げて考え込んでいると、枕に肘をついたオスカーが顔を覗き込んでくる。 「さあ、もう目を閉じて。具合が悪くなったら夜中でも必ず僕を起こすこと。いいね?」  アキトは頷き、大人しく目を瞑った。どうせ自分があれこれ考えたところで答えなど出ない。 「おやすみなさい、オスカー」 「おやすみアキト。とっておきのおまじないをしてあげる。だからもう怖い夢は見ないよ」  瞼に柔らかな唇が触れ、スタンドライトの明かりが消える。まじないが効いたのか、アキトは朝まで夢も見ずに眠った。
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