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5、もしも……春が来たら
白井が編んでいるマフラーが、そろそろ仕上がる頃だ。
ちなみに思い出話の方は、俺の気になる方へと転がっている。
「俺、なんか言ってたかな?」
「うん、寒いだろって言った。その後に加藤が使っているマフラーを私に巻いてくれた」
「あ、そんなこともしたなー」
やっべー、すげぇー恥ずかしい! そんなことしたっけか!
「それにね……こんなことも言ってた。俺は白井の話を聞くだけで、白井の悩みを今すぐに解消することはできない。だけど、こうやって温めることはできる……ってね!」
「なんでそんなに覚えてるんだよ……」
「もしも、白井の心が晴れたら、このマフラーを返してくれないか……とも言ってたよ!」
恥ずかしすぎて……恥ずかしすぎて! 思わず顔を隠してしまう……おそらく、俺の顔は真っ赤になっているはずだ。
だって……手で触っただけでもすごく熱いし……。
てかよう……そんなこと言ったんか……恥ずかしい……。
俺って、中二病だったんだなぁ……。
「恥ずかしすぎる……」
「でもね……私は、返すことができなかった……」
「ああ、そういえばそうだったな。転んだときに……マフラーが木に引っかかって、切れちゃったんだっけ?」
「本当にごめんなさい!」
「いやいや、別に謝ることないって、気にしてないよ。」
どうせ、安物のマフラーだったしな。そこまで気に入っていたわけでもないし……そんなことより! さっきの話が恥ずかしすぎて顔を上げられない!
「加藤……そろそろ顔を上げて?」
「そう……だな」
俺は決心して顔を上げた。
顔を上げた瞬間、白井の顔が近づいてきた。
「な、なんだよ」
「…………」
白井は何も言わず、さっき話の途中にできあがっていたマフラーを俺の首に巻き始めた。
「し、白井? これって……」
「…………」
何も言わない……
巻き終わるまで、無言の時間が続いた。
「あの、これはどういうことでしょう……」
顔を真っ赤にしている。本当にどうしたんだろう。
「…………好き」
「……ん? えっと、今なん……」
「私、加藤のことが好き! そのマフラーはあのときのお返しです!」
「ふぇ!?」
驚きすぎて、好きという言葉の意味が分からなくなってしまった。好きって、どういうときに使うんだっけ……ていうか、このマフラーはあのとき返せなかったから編んだってことなのか?
加藤は、下を向いて体をもじもじさせている。
顔も真っ赤にしている。
何かを言おうと口をパクパクさせている。
「あ、あの……」
「な、何?」
やっと言葉を発した。何を言おうとしているんだろう……
「そ、その……好き……だからさ……えっと……その……」
「う、うん」
なんでだろう、ものすごく緊張する。
手汗まで出てきた。
「私と……付き合ってください!」
また、無言の時間。
今、告白された……よな……?
「駄目……かな……」
白井が、悲しそうな顔をしている。
あのときもそうだったんだ。
悩みを聞いているとき、ずっと悲しそうな顔をしていた。だから、俺は笑顔が見たかった。
笑顔を見たいって言う単純な理由で、マフラーを巻いて、気取った台詞を言ったんだと思う。
俺は、白井の笑顔が見たい。
だから……
「……これから、よろしくお願いします。」
ふと、白石の顔を見た…………泣いてるやん!
「白井! ごめん! なんかごめん! とりあえずごめん!」
「ち、違う……そうじゃなくて……ぐ、うぅ……」
「えっと、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ……嬉しすぎて……もう……」
あ、嬉しいのね。
良かった……
「これから……これからよろしくね! 真也!」
「おう! よろしくな! 咲希!」
この暖かい部屋でマフラーをするのは、ちょっと熱いかも……
だけど、目の前にいる大切な恋人は……そんな熱さを忘れさせてくれるような……眩しくて明るい、冬の景色を彩る……イルミネーションのような笑顔をしている。
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