言えない言葉

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 「 留子、あんたは本当にダメ。言ったろ、離婚したときに子ども達学校辞めさせて働かせなさいって。やのに保育士にならせちゃりたいきって私の言うこと無視して、だからダメダメな人生ながよ。てっちゃんが本当に可愛そう。不幸にしたが、あんたが 」 お酒も入ってないのに、何故か母に突っかかるのはやはり彼女、みえ叔母さん。流石のことに親族が止めに入ろうとするのを私が制する。  「 ねえ、幸せ?みえ叔母ちゃんは、そんなに人を罵って、幸せ? 」  「 …は? 」 耐える母の隣に座り、笑顔でそう聞く私にみえ叔母ちゃんは驚く。そうだろう、誰も今まで見て見ぬふりをしていたのだから。  「 いつ、誰がおじいちゃん不幸やったって言った?おじいちゃん?おばあちゃん?お母さん?おんちゃん?ねえ、誰? 」 おじいちゃん、私は誰よりも優しく在りたい。でも、いい顔するのって、優しい人じゃないよね?おじいちゃん。   「 私は将来の夢を尊重して学校卒業させて貰えたこと、感謝しちゅう。アルバイトしながら交通費出したけど、社会出る前から働くことの厳しさとかお金の有り難さと向き合わせて貰ういい経験やったし、それも別に恨んでない。ダメって簡単に言うけど、ダメって何?人は皆ダメな部分あるやん!!!そんなにお母さんのこと悪者にしたい!?そんなみえ叔母ちゃん、私らみんなの目には良い人として写ってはないよ 」   言いたい事を一気に吐き出す。祖父の死を経験して私は学んだ。今は、今しかないという事を。何も言えないまま時が過ぎ、母に何かあった時、庇う言葉を何も言えなかった事にきっと私は私へと腹を立てるはずだ。   優しく出来るのも、今しかないんだ。   「 ……… 」 何も言わずに黙るみえ叔母ちゃん。   「 優しくしようよ、大事にしようよ。周りをもっと大切にしようや 」 みえ叔母ちゃんだって、元からこんな人だった訳ではない。きっと介護の疲れやストレスもあるのだろう。だからと言って、誰かに刃とし突き立ててはいけない。そのことに、気がついて欲しい。   しかし、何も言わずにその場を離れ帰って行くみえ叔母ちゃん。   「 ありがとうね、まい 」 母は笑っていた。   そして、   『 良くがんばった 』   という祖父の声が聞こえた気がした。
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