ノイズ

4/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
わたしの求めていた言葉を言わなかった。 わたしの目の前が真っ暗になる。 地に落とされた様な感覚になる。 わたしは持っていたマグカップをローテーブルに置き、彼のスマホを撫でる。 「昼間ね、知らない女性から電話きてたよ」 彼の顔が凍りつく。 わたしは言葉を続ける。 「全然、鳴り止まないから、あなたの会社からだと思ったの緊急なのかなって思って、あなたがいないこと伝えてあげようって思ったら……。知らない女性からの電話だったよ」 「か、会社の同僚だ。言ったろ? スマホ取りに来た時」 「そのあと、すぐにメッセージも届いたよ」 「あれも会社の同僚からだ」 彼の視線はわたしを見ていない。何かを隠している時の彼のクセだ。 わたしはさらに追い討ちをかける。 「勝手にスマホを持ってったのは、ごめんね。だけどね、ただの同僚なのに随分と楽しい時間を過ごしたみたいね。ただの同僚が“一緒に住みたい”って言うの?」 彼は言葉を失ったのか、口をあんぐり返した。金魚の口のようにパクパクさせている。 「……。わたしのこと嫌いになったの?」 わたしの問いに彼は、奥歯を噛み締めて、言葉を紡いだ。 「あぁ、そうだよ。嫌いになったんだよ」 人を蔑むような目でわたしを見てきた。 耳を疑った。彼の言った言葉を理解したくないと、耳が脳が感情が拒絶する。 「……」 言葉を失った。 今まで一緒に過ごしてきた時間を否定されたのだ。 今まで一緒に過ごしてきた時間は何だったの? 一緒に見てきた景色は? 一緒に遊びに行った遊園地は? 水族館は? その全てを否定するの……? 無かったことにするの……? わたしの感情の波が押し寄せては、引きを繰り返す。 そしてとうとう、わたしの感情はーーー真っ黒に染まってしまった。 「なんで、隠してたの」 「べつに隠してたわけじゃないし、つうか別れようかなって思っていたしな」 開き直るんだね。 わたしを捨てて、新しい女の子のところへ行くんだね。 「ヒドイよ……。こんなに好きなのに」 わたしの目から涙がポロポロと流れ出す。彼はわたしのこの姿を見ても、指で耳をほじくってて興味のない様子だ。 完全にわたしに飽きたようだった。 「一緒に過ごしてきた時間は何だったの? 全部、全部、否定するの?」 「あー、鬱陶しい! そうゆうのいいから! そんなに一緒に過ごしたいなら、違うヤツ探せよ。ま、お前の顔それなりに可愛いからすぐに見つかるよ、はははっ!」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!