ノイズ

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彼はローテーブルの上にあるスマホを取り、どこかへ電話をかける。 「……。そう、あなたがそんな態度なら」 「あ? 何か言ったか? って、どこ行くんだよ」 わたしを捨てるんだ。なら、! わたしは台所から包丁を取り出した。彼は、電話(新しい女だろう)に夢中になっている。 わたしが今からやろうとしていることに、気づいていないようだ。 わたしは、呑気にソファで電話をしている彼の目の前に立つ。 彼の目が見開いた。わたしの持っているモノに驚愕している。 「お、おい、何持ってんだよ……? なんだ、脅しか? 脅しても無意味だ!」 「脅しじゃないよ……」 わたしは包丁を彼に向ける。彼はソファからずり落ちた。手からスマホも床に落ちた。 通話相手はやっぱり、あの女だった。 『なに? どうしたの?』 あの女の声がスマホから聞こえてくる。彼はスマホに向かって、「け、警察を呼んでくれ! ヤバイんだよ! 頼む!」彼の異変に気付いたあの女は、通話を切ったようだ。 でもね、そんなことしても無意味だよ。 「お、おまえ……。俺を殺すのか?」 わたしは首を振る。 「殺さないよ、あなたは殺さない」 「じゃ、じゃあ……なんで?」 わたしは包丁を自分の首に当てた。 「わたしを捨てないようにするためよ」 「へっ……?」 わたしは包丁に力を込めて、自分の首を深く切った。 綺麗な鮮血が首から吹き出る。 彼の目がわたしを。 彼の歓喜の声がわたしの耳に入ってきた。 これで……。 あなたは、わたしを捨てずにすむね?
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