3話

1/1
前へ
/6ページ
次へ

3話

卒業式の帰り道。 まだ、雨は止まない。 雲も綺麗な空を覆って涙を流す。 幸香は母と、ひとつの傘に入っていた。 杏奈と笑顔で別れた幸香は なにかスッキリしたような顔で歩く。 「お母さん。私、卒業式でも泣かなかったよ。」 「....えぇ。頑張ったわね」 卒業生の約9割が泣いていた卒業式。 幸香は、泣きそうになったが上を向き なんとか我慢したそうだ。 母は、一瞬悲しくなったが 幸香は一生懸命頑張っているんだ 幸香のためにも、前向きにいかなければと 決意した。 「....幸香。」 歩みを止めた母に気付く幸香。 傘の輪から外れ、制服に雨のしみが出来る。 紺色がもっと濃くなる。 幸香は、何かを決めたような顔をした母を見た。 「お母さん、決めたよ。 何があっても幸香を見捨てない。諦めない。 私は、幸香の味方だから。 涙花病になんか負けないで。 東京に行って、 困った事があったらすぐに電話して。 そっちには行けないけど相談を受けることは出 来るから。」 幸香は、上京し寮生活をするのだ。 悲しい事があっても、母は自分の体で 抱きしめあげられない。 少しでも幸香の力になりたい。 母が出来ることは、電話の向こうの幸香を 元気づける事。 母は、幸香が心配でたまらないのだ。 「お母さん....ありがとう。」 幸香は、思いを受け止めたのか 優しく微笑む。 「あー、せっかくお母さんがアイロンして 綺麗になったのに、雨が染みちゃったよー」 「そのくらい、なんでもないわよ」 その頃。 幸香の元中学の教室には 1人の卒業生がいた。 窓に向けて立ち、両手で目を塞いでいる。 「....ッ」 それは、長身で細身の男だった。 数秒後、 サラサラな前髪をかきあげて溜息を吐く。 「おーい、魁斗!遊び行くぞ!」 魁斗、と呼ばれた男は 綺麗な顔を、廊下にいる後ろの友達に向け 微笑んだ。 「あぁ、今行く。」 彼の目には、少しの血の跡。 そして 手には、キラキラした星が握られていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加