4話

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4話

魁斗に、その病名を知らされたのは 幸香が涙花病を知った時より少し前の事だった。 静かな診察室に 魁斗とその母、医師が暗い表情で座っている。 カルテにはなんの異常は見られない しかし、診察結果には病名が書かれていた。 医師は、閉ざしている口を開けた。 「....息子さんは星涙病にかかっています。」 上品な魁斗の母は、衝撃で一瞬瞳が揺れた。 綺麗に切り揃えられた爪が 握りしめることで白くなる。 魁斗は、まるで分かっていたかのように 驚きもせず俯いたままだった。 その目は、全てを諦めたかのように 光を宿さず真っ暗。 「な、なんで星涙病に....?」 凛とした母の声が静かに響き、消える。 白い首には、汗が一筋垂れている。 「............僕が、片想いをしたからだ。」 本来は医師が答えるべきことを、代わりに 魁斗が話した。 「調べたんだ、星涙病について。 片想いをしている人100兆分の1の確率で発症 するって 。」 100兆分の1。 魁斗は、その100兆分の1の人として 選ばれた特別の発症者なのだ。 母はそのショックで、 全身から力が抜けた。 「....息子は片想いという原因で星涙病になっ たってことですか?」 「そういう事になります。 治す方法はひとつ。 その片思いの方と、両想いになるしかない」 薬もなく、治療方法もない中、 「両想いになる」という希望。 母は、涙で潤んだ目を魁斗に向けた。 「....魁斗は、誰を好きになったの?」 魁斗は、眉間に皺を寄せ 口を開いた。 「........分からないんだ。誰に恋をしたのか」 母は、ため息をつく。 完治への道のりは長そうだと 医師は悟った。
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