5話

1/1
前へ
/6ページ
次へ

5話

魁斗は、表情が暗い母と共に車に乗り込んだ。 何も話すつもりもなく、使用人が運転する車の中から景色を眺めた。 最近話題の雑貨屋、JK層が集う喫茶店。 少し寂れてるけど、年齢層が広い商店街。 一つ一つがおしゃれな街が、飽きたようでまだ好きなようだ。 思わず頬をゆるめる。 「............魁斗。」 ふと、助手席に座っていた母が呼んだ。 視線を前へやると、顔を振り返らせ いつもの厳しい顔に戻っていた。 眉間に皺を寄せ、睨みつけるように 魁斗を見る。 まだ中学生の魁斗からしてその顔を母にされたのがショックなのか、顔を俯かせる。 「絶対に片思いをした子を探すのよ。 もうすぐ卒業だからその間に。 ....またお父さんに叱られるからね。」 「....うん。」 運転する使用人が顔を顰めた。 その表情の変化には、母は気づいてない。 魁斗は見てないふりをしたが。 使用人、唐原 聡志は、魁斗が信頼出来る 昔からの親友同然の男。 聡志は、母の言葉に不信感を抱き ハンドルを握る手の力を強めた。 「....今日の18時から、習字だから。 忘れないでよ。」 「分かった。」 魁斗には、毎日と言っていいほどの習い事がある 中学の部活をするのも許されない。 魁斗の家、神原家は他の一般家庭とは違って 贅沢な暮らしをしている。 魁斗の父が、大手IT企業の社長。 母は、外国で活躍するプロバイオリン奏者。 世の中からも完璧な存在、という事を強いられた 魁斗は自由なことが出来ない。 友達と遊ぶ暇があるなら、習い事、勉強。と 昔から言われていた。 そのおかげで友達は片手で数えられる程度である 母の言葉を聞いて、不自由さを感じながら 魁斗はゆっくりと車の揺れに身を任せ 目をつぶった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加