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「──ていうかさ、前も同じようなこと聞かなかった?」 「あー、うん。そうだな」  覚えてたのか。颯太にも嫌な思い出を作ってしまっただろうか。 「あれからどうしようか考えた、って今思い出した」  最後につけ加えられた軽い声は、何でもなさを装った少しのわざとらしさが混ざる。思わず颯太を見ると、その視線は左下を向いていた。 「帰ろうぜ」  颯太は机の上に広げていたノートと教科書を片づけ始めた。横から持ち上げた鞄は妙なでこぼこで、既視感を覚えて自分の鞄に目をやる。  ない。  見直すまでもない。一番上に入れていて、落ちていく場所なんてない。分かっているのに信じられず、手を入れてみたそこはかすかにひんやりとしていた。  なくなったのだ。俺が思い出したからかもしれないし、この出来事が収拾したからかもしれない。でも消えて良かったのだ。いいことだ。俺は自分に言い聞かせて、鞄のチャックを閉めた。 「有士、塾は?」 「今日はない」 「そっか、じゃあさ」  颯太が肩にかけた鞄は、いつの間にか綺麗に四角く整っていた。もしかして──いや、何でもいいか。  二人で教室を後にして階段を下りていく。  一番良かったのは、たぶんあの時に言っていたこと。こんな風に取り返しがつかないことだってきっとある。そしてたとえ言えなかったとしても、なかったことにしてはだめだったのだと思う。  それができていたら、言葉が降ることもなかったのではないだろうか。下駄箱で靴を履いて校庭に出ると、目の前には灰色が広がっている。 「……これ、なくなるかな」 「だといいな」  期待も込めてしまった返事に颯太はうなずいた。  他に気づいた誰かも、同じように拾っていてくれないだろうか。その誰かが、誰かに教えてあげていないだろうか。俺は――次に島崎と話す時、遠回しにでも言ってみようか。  久しぶりに颯太と同じ帰路につく。灰色は変わらず曇天で、それでも息はしやすかった。
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