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I have a dream
その教室には古びた机と椅子が二組、向かい合わせに置かれている。片方には教師が、もう片方には生徒が座る。いつもは机に、鞄に、びっちりと埋めらているはずの教室がその時だけはガランと閉店後のデパートのように静まり返って普段とは違う空気に包まれている。教室の窓やドアを閉めただけでその空間は外と断絶された別世界になる。外で部活に励む学生も廊下を歩く学生もただの風景に成り下がり、吹奏楽部が鳴らす楽器の音だけが教室の扉を抜けて響いてくる。僕は年老いた担任の先生を目の前に片方の席に座れせられる。
「福田は進路どうすんだ?」
担任の先生に答えが決まっているかのように質問される。きっと福田先生の頭の中には『進学』という道しかないだろう。市内では自称進学校とされる市内では賢い部類に分けられる高校に入ったのだから当然なのかもしれない。教師陣はレベルの高い大学に進学してくれるのを望み、親もそれに賛同している。僕だってそれに反意がある訳じゃない。それが一番いい道だと一番安全な道だと分かっている、納得している。それでも僕はなぜだかそれを口に出来なかった。
「僕は・・・分かんないです。どこに進みたいのか、何をしたいのか。大学に行ってもやりたいことがある訳でもないし、行っても行かなくても変わらないかなって。だから進学してもしなくてもいいっていうか。」
そんなことを教師に言えば、どういったことを言われるかおおよそ予想はついていた。どっちでもいいなら大学に行っとけだとか、大学でやりたいことを見つければいいだとか。もしかしたら、大学に行けない子もいるのに贅沢だなんて説教をされるかもしれない。怒られるかもとは考えなかった。それは嫌だなと思って、下を向いたまま先生の言葉を待った。そんな先生の言葉は予想の斜め上だった。
「先生にはな、夢があるんだ。」
そう言って先生は僕が顔を上げるのを待ってから話を続けた。
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