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先生は僕の顔をしっかりと見てから続きを話してくれた。
「そうやって教え子が増えていくほどに先生と同じような学生を何度か見るようになったんだよ。自分と同じような人生を歩むのを見過ごせなくて、そういう学生の面倒をよく見るようになった。先生と同じ過ちを犯す学生に夢を持ってもらいたい、希望に満ちた人生を生きて欲しい。そう思ったんだ。だから、先生には夢がある。叶えるために生きる夢があるんだよ。」
先生と目が合う。その目が何かに満ちているのが僕にも分かった。
「でも、僕に夢はありません。希望も願いも想いすら持ってないんです。先生の夢は分かりました。それでも、僕は先生みたいにはなれないです。先生みたいに夢を持てないです。」
僕はそれでも納得は出来なかった。夢を持つことの素晴らしいさを語られても、夢を持つことで得られるものを示されても、僕が夢を持てることの証明にはならない。いくら言われようとも僕に夢が無いことは変わらなかった。
「それは悲観することじゃない。」
先生はなだめるように落ち着いた声で僕に言う。
「人は急には変われない。ゆっくりでいいんだよ。きっといつか福田が夢を持ったときに先生の言っていたことが本当に分かる日がくるよ。だから、ゆっくり生きていくといい。大学に行くも、行かないも、大切なのはそこじゃあない。生きることだ。生き生きと自分の人生を歩むことだよ。そのために夢を持つといい。それが先生の言えることだ。」
そう言って先生は僕の答えを無理に問いただすことなく、面談を終わりにした。教室の扉を開けると、これまで離れていた世界ともう一度つながる。その世界は先生にはどう見えているのだろうか、その答えが知れる日がくればいいと心の底からそう思った。
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