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バレンタインタイム
私は、あの日あの時…彼のせいで時間が止まった。
『ねえ、明日のバレンタインなんだけど…どこ待ち合わせがいいかな?』
彼とバレンタインに会う約束は前もってしていたが、前日に待ち合わせ場所が決まっていないことに気づいた。
『ごめん、その日友達と遊ぶ予定入った』
私はあっさりと断られた。
友達とって何…?年に一度の…しかもバレンタインという自分の愛情を伝える日に、わざわざ友達との予定……。
彼は遠まわしにこう言った。
“彼女よりダチの方が大事だ”
と。
私は覚悟を決めた。
『ごめん。そんなに彼女より友達の方が大事なら別れてくれない?』
そう彼にメールを送ると、
“既読”
のまま無視されてしまう。
私と彼の関係は一瞬にしてあっさり終わってしまった。
次の日学校に行くと、校門前にクラスメイトが深刻な顔をして立っている。
誰か待ってるのかな、と思いながら校門を通ると、彼はこっちを向き、
「潤井華恋(うるいかれん)さん!!!お、おれとー、付き合ってください!!」
漫画やアニメなどで見た事あるようなワンシーンで、私は思わず笑ってしまう。
「ふふっ…ごめんなさい。漫画とかで見たことのある光景が目の前に見えているんだもん。笑っちゃいけないのわかっているんだけど笑っちゃうわよ。ごめんなさい、私はあなたとは付き合えない。でも、気持ちは嬉しかった。」
葵と別れた直後に、この人と付き合うのは何か申し訳ないし男好きだと周りに思われる。
そんなのはごめんだ。
葵もその現場を見ていた。
「あ、葵…。ちょっと話があるんだけど…」
そう言って、葵を体育館裏へと呼び出した。
「ねえ、ひとつ聞いていい?私のこと、もしどうでもいい存在だったならなんであの時…家に呼んでくれて…抱きしめてくれて…キスをしてくれたの…?あのキスは嘘…?」
そう、私は少なくともこの目の前にいる男とキスまで交わしている。なのに、嘘でした、は流石に最低な男だと思う。
だから、彼に確認したのだ。
もう一度彼に、好きだと言って欲しくて。
私は、彼にもう一度好きになってもらえるのなら、なんだって頑張れる。
だって、葵は私が好きになった男の中で一番好きになった人なんだから…。
「俺、誰でもよかったんだ。付き合えるなら、華恋だろうと華恋の親友だろうとね。俺は、“彼女”というものが欲しかった。作ってみたかった。でも、女に囲まれている今、俺はそんなものもう必要なくなった。…まだわからない?華恋はこの俺に、捨てられたんだよ。」
あっさりと振られてしまった。
私は、泣きそうになったがグッと堪えて空を見た。
「今日も…空は青いね。この世界は空で繋がっているんだよね。なら、私が鳥になったとしても、葵の目には見えるんだよね。」
そういい、私は学校の屋上へ向かう。
「葵、最後に私のわがまま聞いてほしい。最後に、葵と一緒に屋上で空を見たい。」
彼は、しょうがなさそうな顔で私の後を追いかけた。
私と彼は屋上へと無事、辿り着く。
「ごめん。葵と空を見たいっていうのは嘘。私は今、ここから葵の近くで塵(ちり)となって消えるの。だから、それを葵には見届けて欲しくて。だって、私は葵のこと本気で好きで死んでしまいそうなくらい好きなのに、葵は私のこと…ゲーム感覚で楽しんでたんだね…。そして私はゲームオーバーというわけだ。いいよもう。望み通り終わりにしてあげる。」
私は屋上に取り付けられたフェンスを軽々と飛び抜け、私は綺麗に鳥へと生まれ変わったのだった。
これが、私らしい生き方だと、そう実感する瞬間…。
生きているってしんどい時が多い、けど、それを諦めることほどしんどいものはない。と私は思う。
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