憑依

「ここから出ていけ！」

その声は低く不気味でしたが、その声の主が宏介であることが私にはすぐにわかりました。

宏介はイタズラのつもりで電話をかけてきたのか？

最初はそんな風にも思いましたが、まだ小学一年生の宏介にこんな演技がかったことができるとは思えません。

私は不安にかられながらスマホを握りしめ、その不気味な男の子の声にゆっくりと言葉を返しました。

「あなたは誰？

宏介なの？」

私のその問いに返事はなく、空白の時間が過ぎていくその間、私の呼吸は乱れ、心臓がドキドキと音を立てていました。

何かの間違いであって欲しいと心の中で願いながら、私はスマホを握りしめ、もう一度、震える声で電話の相手に話しかけたのです。

「もしもし……。

あなたは誰なの？」

私がスマホから聞こえてくるはずの声に集中していると、再びスマホから男の子の不気味な声が聞こえてきました。

「ここから出ていけ！」

宏介らしき男の子の声がそう叫んだとき、電話が突然切れ、プー、プーという機械的な音だけが私の耳に届いていました。

今の電話がいったい何だったのか少しもわからぬままに、私は不安にかられながら部屋の中で立ち尽くしていたのです。