1人が本棚に入れています
本棚に追加
見知らぬ土地
背景の曖昧な空間に、妻らしき人物が立っている。
「ごめんなさい、また呼び起こすことになってしまって。」妻はわがままを言うときのような、微笑を浮かべながらどこか言いにくそうな顔をしている。
結婚してから2年半立った今ではあまりしなくなった顔だ。こんな顔を見ると結婚前に交際していた頃のことを思い出す。
なんのことかはわからないが、こんな顔をされると全てを許してしまいそうになる。
構わないよ、と言おうとしたが言えたかわからない。
「あなたはこれから大変な目にあうことになるわ。それでも夢のようなものだから、どうか気負わないで。それと、あなたの手元にあるものはとても大切なものだから無くさないでね?」どこか心配そうな顔で妻はそう続けた。
なんのことかはわからなかったが、ああ、わかったよと笑顔で返した。それを聞いたのか、彼女は安心したような優しい笑顔になった。
「私は一緒にいけないけど、ずっと見守ってるから。もしもの時は力を貸してあげられるから、安心して。」
そう言ったかと思うと彼女は立ったままであったが、次第に彼女との距離が大きくなるような気がした。どこへ行くんだい?と手を伸ばし彼女を追うとさらに早く彼女は遠くへ行ってしまう。思わず駆け出すが全く追いつきそうにない。
「待って!」今度は自分の声が自分の耳で確認できた。
途端に意識がはっきりしだし、光が瞼を照らすのを感じる。どうやら夢を見ていたようだ。自分の声で起きるなんて、いつぶりだろう。
薄眼を開けたが、あまりの眩しさに目をぎゅっとつぶる。寝起きが悪いのか、体がだるい。うめき声をあげながら頭のみを動かして周りを見る。すると、上には青空と太陽が、横を見ると青々とした木々が見える。見慣れた寝室とは全く異なる光景があった。
あまりのことに、瞬時に目が覚め体を起こそうとする。すると体のあちこちに痛みが走った。
痛みを我慢しながらゆっくりと起き上がる。
「な・・・」自分が寝ていた場所を見渡して絶句した。
足元の方に生えている木は五、六本が途中、あるいは根元から折れ、枝や葉っぱが辺りに散らかっていた。さらに自分が寝ていたあたりは地面がえぐれて小さくくぼんでいた。あたかも何かが空から落ちてきて森に突っ込んだようである。
最初のコメントを投稿しよう!