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深呼吸をして息を整え、再び立ってあたりを見渡す。ここはどこだろう。昨晩は妻と一緒に寝室で寝たはずだ。ならば妻も同じ目にあっているのだろうか。身重の体でこんな森の中に放り出されたと考えたら急に心配になってきた。
「絵莉ー!」妻の名を呼びながら森の中を歩く。
どれくらい時が立っただろうか、あてもなく山道を登ったり降ったり、細い川を渡ったりして歩くのも叫ぶのも疲れてきたころ、前方の木々の間に簡素な木造の小屋を見つけた。誰かいるかもしれない。助けを求めよう。
「すみません。」小屋の戸を叩きながら呼びかけてみた。
本当に簡素な作りで、木の格子がはまっているだけの窓から中を覗いたが誰もいなさそうだ。
「そこにいる者、何者だ!」緊張感のある怒鳴り声に思わずビクッとする。
振り返ると、頭に髷を結い、直垂と言うのだろうか、着物に袴姿の男性が二人こちらを警戒した様子で見ている。
時代錯誤な格好に疑問を抱きつつも助けを求めるためこちらからも声を掛ける。
「た、助けてください。道がわからなくて、困っているんです。」
理不尽な状況に、慣れない山歩きで心身ともに疲れ切っていたため、藁にもすがる思いだった。しかし、二人の男性は警戒を緩める様子はない。
「その姿、この国の者ではないな!その手に持っているものはなんだ!」
それはこちらのセリフだった。二人が腰の鞘から抜いたものは、なんと正真正銘の刀だ。最初は格好といい、何かの冗談かとも思ったが、緊迫した只ならぬ空気に圧倒される。
二人はじりじりと、左右に広がり間合いを詰めてくる。誤解を解かなくては何をされるかわからない。
「抵抗するつもりはありません!」そう言って足元に持っていた刀を置いて両手を上げた。
そこまでしてようやく害意がないことが伝わったのか、警戒しつつも今すぐ切りつけてやろうという雰囲気は和らいだ。
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