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迷子
「お母さん!」そう叫んで僕は目が覚めた。
頭がぼんやりとしてる。知らない天井だ。布団の感触もいつもと違う。おばあちゃん家に来たんだっけ。
起き上がると縁側から外の光が注いでいて少し眩しい。
「あら、目が覚めたかい。」後ろの方で知らない人の声が聞こえてビックリする。
あたりをよく見ると知らない家だ。声をした方を見るとよく日に焼けた女の人が安堵した顔で土間からこちらへ上がってくる。
「体は大丈夫かい?どこか痛いところはないかい?」女の人は布団の傍まで来て膝をついて訪ねてくる。
頭に白い三角巾みたいなのをつけて、着物の上から白い服を着ている。顔は日によく焼けているけど、僕のお姉ちゃんより少し年上な感じがする。
ぼんやりしていた頭が次第に物を考え出した。ここはどこだろう。この人は誰だろう。昨日確か僕は・・・家で寝ていたと思ったんだけど。
「どうしたんだい?口がきけないのかい?」女の人は頭の中を整理している僕の顔を心配そうに覗き込んでくる。初対面の女の人の顔が急に近づいたので少し驚いた。
「あ、えと、その」布団の上で少しのけぞり距離を取りながらうろたえた声を発してしまう。
女の人は僕の次の言葉を待つようにこちらを見つめてくる。
「あの、ここはどこですか?」真っ先に浮かんだ疑問をまず口にした。
「ここはあたしらの家だよ。父ちゃんが朝道端で倒れてるあんたを見つけたんだよ。泥だらけだったし、近くに引きずられた後とかがあったから悪い人に乱暴されたんじゃないかって。」心配そうな表情で女の人は答えてくれた。
助けてもらった親切に感謝する余裕もなく、僕は混乱した。お母さんは?お父さんは?お姉ちゃんは?乱暴された?僕が?
「他には、僕の他には誰もいませんでしたか?」混乱したままさらに生じた疑問をそばにいる相手にぶつけた。
「他?特に聞いてないけど、誰かと一緒だったのかい?」女の人は困惑した表情で答える。
その答えが意味することを、僕は少し遅れて理解した。理解してなお、頭の中の整理はつかない。僕が唖然としていると、台所の方で鍋が噴きこぼれる音が響いた。
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