牧場で草を食んでいた

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 牧童たちは、勇から精子を抜き取り、人工授精で多くのメス牛にも子牛を産ませた。牧子にも可愛い子牛が産まれた。 仲良くなった牧子が言った。「イケメンさん、何処から来たのか知らないけど、私を離さないでね」と囁いた。  勇は、牧子を好きになっていた。「もちろんだ。僕は幸せ者だ。どんなことがあっても君を離すもんか」と心からの言葉を口にした。  混濁した意識が少しずつ回復してきたのか、誰かが呼んでいる声が聞こえてきた。 「加藤さん、目が覚めましたか? 私が分かりますか?」  ぼんやりと白い背景と、人の顔が見えてきた。確か、この人は私の心臓手術を執刀したドクターだった。  少し頭痛がしていたが、「はい、分かります」と声に出してみた。私は手術後、この集中治療室に寝かされており、白いカーテンに囲まれていた。術後の経過は順調だった。三日目には、院内をゆっくり歩けるようになった。長時間、ベッドに寝ていると筋肉が衰えるので、歩くことは必須なリハビリだった。  術後三週間で退院することができた。勇の鼓動は、手術前と異なる感覚だった。深夜、寝ていると鼓動が激しく感じられ、隣にメス牛の気配も感じられた。「私を離さないで」と囁いたメス牛の吐息が感じられた。そして、無性に青い草が食べたくなった。
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