牧場で草を食んでいた

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 牧場で草を食んでいた

 異変を感じたのは数年前だった。心臓の専門医を訪ね診断を乞うと、大動脈弁の異常が見つかり、心臓から動脈に送り出す大量の血液が逆流していることが判明した。胸がしめつけられる痛みが頻発していたのだ。早速、医師たちにより動脈弁の置換が検討された。加藤勇は、手術を受けたら痛みから解放されると説明を受けた。手術による死亡率は約3~4%程度とのことであった。勇は覚悟を決めた。医師は、勇が高齢なので、術後の自己管理の容易な生体動脈弁への取り換えを勧めた。生体弁にはウシとブタの選択があった。勇はウシを選んだ。  勇は、ストレッチャーに乗せられ、手術室の前に運ばれた。付き添いの妻から「頑張ってね」と見送られて手術室に入った。天井の強い照度の明かりが眩しく目を閉じてしまった。 「加藤さん、これから手術を始めます。心配はしなくていいので、楽な気持ちで居てください。これから麻酔をかけますよ。」と執刀するドクターに声をかけられた。麻酔注射とともに、ストンと意識が無くなっていった。
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