王様のお菓子

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 もうすぐ松が取れる、という日。 「これ、お年賀兼お土産」  酒を飲んでいる男三人とは別に自分の飲み物を淹れに立った千都香が和史から手渡された箱には、丸いパイが入っていた。 「わー、美味しそうなパイ!!なんのパイですか?」 「中味は、アーモンドクリームだけど……これ、知らない? 年末年始のお楽しみ」 「知りませんでした!年末年始のお菓子なんですか?」 「そっか……」  和史はパイを皿に乗せる千都香を見ながら、何やら考えている様だった。 「千都ちゃん?」 「なんですか?」 「これ、切るのにコツが要るんだ。俺に切らせて貰って良い?」 「コツ?」  皿の上のパイを見る。  何の変哲も無いパイに見えるが、和史がそう言うのなら任せた方が良いだろう。  お願いしますとナイフを渡して、フォークも持って来てくれるように頼む。千都香自身は、両手でパイの皿を捧げ持った。 「みなさーん、頂いたお茶菓子ですよー」  毅と壮介が、客二人が持参したつまみで飲んで居る所にパイの皿も置く。 「何だ?」 「ガレット・デ・ロアっていう、期間限定のパイ」  壮介と毅は、ふーん、と特に感慨も無さそうにパイを眺めている。毅と壮介は酒の方が嬉しいのだろう。 「嬉しいですね、こういうの!丸いケーキってテンション上がりますよねー!」 「ケーキじゃねぇだろ」  和史が切り分けるのをわくわくと眺めていた千都香は、壮介に突っ込まれてムッとして睨んだ。 「すみませんね、ケーキじゃありませんよね。ガレットですね、ガレット。はい先生の分のガレット。」  眉間に皺を寄せた千都香が切り分けられた一皿を差し出すと、壮介の眉間にも皺が寄った。 「俺は、遠慮しとく」 「え!!」  驚く千都香に、壮介はビールを片手に言い放った。 「お前二人分食って良いぞ」 「壮介。これは、縁起物なんだよ」 「縁起物……」  和史に皿を渡された毅の眉間にも皺が寄る。目の前のガレットと「縁起物」という言葉のそぐわなさに困惑しているのかもしれない。 「お前、千都ちゃんのお正月料理食べただろ?ならこれも食べないと」 「え、壮介」 「貸せ」  そこは突っ込まれたく無いらしく、壮介は千都香から皿を引ったくった。  和史の言う通りだった。千都香が帰省していたので元旦でこそなかったが、壮介は三が日の間に千都香のお節介による簡単なお節と雑煮を食べさせられていた。何故分かったのだろう。壮介は和史の鋭さに、背筋がぞくりとした。 「はい、千都ちゃんもどうぞ。あ。これは、小さく切って崩して食べてね」 「ぼろぼろにならないか?」 「ガンガン。それがお作法なんだから我慢して」  スプーンもあるよ、とフォークと共にガレットの皿の横を示した。
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