お姫様のお菓子

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 従姉の娘の愛香の暖かく小さな体がぴったりと自分に寄り添って、目の前のテーブルの上を見詰めている。それを微笑ましく思いながら、千都香は薄くて真四角の四角い白い紙箱の蓋を開けた。 「わあ!まるーい!!」  はしゃいだ愛香は、いっそうぎゅーっと抱き付いて来た。その愛香の頭を、斜め前に立っていた雪彦が撫でる。 「おー!ケーキ?パイかな?」 「ふふっ。すごいでしょ、丸ごとだよー」  冬休みが終わる前にと、従姉弟の梨香と雪彦の家に、愛香が泊まりにやって来ていた。明日から学校なので今日は帰るという日の昼ご飯を一緒に食べたいと、千都香は愛香に招かれたのだ。 「……ガレット・デ・ロワ?」  梨香が紅茶を淹れながら呟いた。さすが、小洒落た物に詳しい。東京暮らしが地元暮らしと同じくらいになりつつあるだけのことは有る。 「うん。お土産に持っていけって、買ってくれたの」 「ふーん」  主語の無い千都香の言葉を聞いた梨香が、ふん、とふーんの中間くらいの相槌を打った。関心の無さを強調しようとしすぎて、あからさまに不自然になっている。 「ちぃちゃん、買ってくれたのって、名人?」 「そうだよ」  愛香の質問に、千都香は頷いた。  愛香は、壮介を「名人」と呼ぶ。きっかけは、愛香の母の央子(ひろこ)が大事にしていた金平糖入れの蓋を、壮介の指導を受けた千都香が修繕した事だった。綺麗に(つくろ)われた蓋に感激した愛香は「ちぃちゃんの先生は、すごい名人だ!」と言って、その時から壮介をそう呼んでいるのだ。結婚する事になった後も、自然に直したくなるまでそのままで良いと壮介が言ったので、いまだに「名人」のままなのだ。  「名人は来ないのに、お菓子だけ来たの?名人も来たら良かったのに!!」 「ありがと。今日はお仕事なんだ。まなのお父さんと同じ」  千都香は、残念そうに口を尖らせる愛香に言い訳をした。  仕事は仕事だが、今日絶対にやらなくてはいけない仕事では無い。実際は、梨香から「貴方と千都香の結婚には賛成出来ない」と言われたままなので、遠慮して来ないのだ。結婚すると告げてしばらくは千都香にも腹を立てていたのたが、さすがにそちらは和解している。
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