お姫様のお菓子

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「これ、四つに切ると大きすぎない?」  丸いガレットは、大人の手を広げたよりも、一回り大きい。 「そうね。……六個に切って、残りはお土産にするのはどう?」 「うん」  二切れを愛香に持たせれば、父親の尚と二人で食べられるだろう。千都香はナイフを持とうとした。 「ちぃちゃん!それ、まなが切っちゃだめ?」 「やってみたいの?」 「うん!」  目がきらきらしている。丸いケーキを切り分ける機会など滅多にないだろう。パン切り用のナイフなので、普通の包丁よりは危なくないかもしれない。 「これね、中に一個だけアーモンドが入ってるパイなの。それに当たると滑ったりするかもだから、気をつけて切ってね」 「アーモンドがいっこ?……分かった!」  愛香は千都香の手からナイフを受け取ると、慎重にガレットの上に当てた。 「まなちん、気をつけてね!どんな風に切れてもいいから気を」 「ゆきにい。しずかにして!」  愛香に怒られた雪彦は、はいぃと小さな声で頷いた。  さっくりと、真ん中に一本。よく見て斜めに刃を当てようとして、一度止まってパイの方を回した。二本目、三本目。 「……できた!!」 大仕事をやりとげた愛香は、ふうっと満足げに息を吐いた。 「上手い上手い!」 「上手に切れたね」 「おー!しっかり六等分になってる!」 「みなさん、どうぞめしあがれ!」  大人三人に誉められて、愛香はにこにこと笑った。 「まな、最初に選んで良いよ。アーモンドが入ったのを選んだ人は王様とか王女様になって、その年の幸運が来るんだって」 「そうなの?」 「うん。ほら、冠と王様のしるしも付いてるんだよ」  千都香は金の冠と小さな袋を愛香に見せた。袋の中は見えない様になっているが、フェーブと呼ばれる陶器の小さなマスコットが入っている筈だ。 「わあ、かわいい!当たるといいなー」  愛香は真剣な顔で六切れに分けられたガレットを選んだ。 「これにする!」 「じゃあ、私はこれ」 「これにしよっと」 「どれに入ってるか分からないから、残りに入ってる可能性も有るね」  四人はそれぞれ、ガレットを食べ始めた。  
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