捨てる神あれば拾う神あり

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「お母さん、はじまったでぇ」 設楽 翼(したら つばさ)5歳。は台所で洗い物中の母の横で、少しジャンプしながら足をバタバタさせていた。 母親に伝えたら、すぐにリビングに走って行った。 「変なもんが、好きやね」 設楽 空(したら そら)32歳は、洗い物の手を休めて、翼の後ろ姿に目をやりながらクスッと笑った。 「なに、ここどこや」 目が覚めて現状把握ができない女、 佐伯 萌(さえき もえ)32歳。 「……白い」 目に飛び込んできたのは、白。少しだけ顔を左右に振ることができた。 「花?菊か」 顔にかかっていたのは白い菊の花。 体が動かない。固定されているようだ。手も何かで結ばれている。 「棺桶……」 微かに読経と、泣き声が聞こえてきた。 1分で現状把握ができた。が、死んだ記憶がない。 「助けて」 声を上げようとして、ゾッとした。唇がくっついて口が開かない。 「どうなってるんや」 唇に何か強力な接着剤がつけられているのか。 「もしも、生き返った時のために、体が動かないのも」 焦っても仕方がない。冷静に分析を始めていた。 「ここまで、用心深く、用意周到に私を殺したのは……もしかして」 悲しさで目を閉じた。 「最後のお別れも終わったんかな」 棺桶の扉が開くのを待つしかない。 「火葬場で開けてくれるな、そこまで耐えよう、ううう……」 萌は息苦しくなってきた。鼻に詰め物がしてあるために呼吸がしにくいようだ。 口も開かないため口呼吸もできない。 「……鼻になんか詰まってるんか。菊の匂いせーへんから、鼻悪なった思ったわ。耳鼻科行かんでええな。よかった」 目を閉じたが、すぐ目を開けて笑みを浮かべた。 「アホか、鼻の心配なんかどーでもええねん。呼吸でけんのやで、ドアホ」 空やったら、絶対につっこんでくれるやろな。速攻でぶちぎれてるな。 「もうあかんわ。息でけへん。2度殺されるなんて、死んでも許さへんで」 もがきたいが、体はまっすぐのまま。 「化けてでてやる。でも、なんとかして……」
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