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「……悩んでたんだ?やっぱり」
混乱しつつも、どうにかそう返した。実は浮気を疑ってしまいました、なんて言えるはずもないことである。
「うん。……ほら、今日俺の誕生日だけど、芽実の誕生日も同じく今月末じゃん?だから、プレゼント用意したくて……今月末に会えるかどうか怪しかったから、今日までに作って持ってきたんだけどさ」
言いながら、彼は。バッグの中から、包装紙でぐるぐるに包んだ何かを取り出した。少しだけ躊躇った後、それを私に渡して来た彼は。再度“本当にごめんよ”と返してきたのである。
「俺、そういうの、昔から全然だし。男がこういうプレゼントじゃただでさえ引かれそうだから、せめて綺麗にして渡したかったんだけど……うまくできなくて、それが悔しくて。だから、ごめん。……こんなボロボロになっちゃって」
包装紙を開いた私は、目を見開くことになった。
なんとそこには――緑色の、ふかふかのマフラーが綺麗に折りたたまれて鎮座していたのだから。
既製品でないことは明白だった。なんせそれは、私が彼にプレゼントしようとしていたマフラーと同じように、あっちこっちがほつれて糸が飛び出していたのだから。
「今年、寒いし。……芽実は、俺が料理好きだって知っても引かないでくれたから。こういうものの方がいいかなって思ったんだけど……」
まさか、悩んでいた理由はこれだったのか。
プレゼントがうまく編めなくて、ボロボロのマフラーしか仕上げられなくて、それで。
「……ばか」
ああ、なんだろう。既製品とは全然違う、歪な形のマフラーなのに。
どうしてこんなに、こんなに胸の奥が熱くてたまらなくなるのか。冷たい指先さえも忘れて、泣きそうな瞳まで。全部が全部、こんなにあったかい冬が果たしてあったか。
「私達、考えること似すぎでしょ。どんんだけ相性いいんだか!」
そして私は、せっかく貰ったマフラーを濡らしてしまわないように、袖口でごしごしと目元を拭うと。カバンにつっこんであった紙袋を、稔に強引に押し付けるように渡したのである。
「お誕生日おめでとう!ごめん、私こそ……全然ダメだめのダメだったけど!」
誕生日プレゼントは、お互い同じものの交換会になった。けれど渡した気持ちはひっそりお互いの中で跳ね返って、今は倍の倍まで膨らんでいるはずである。なんせ、お互い残念すぎる出来のマフラーを巻いている首元は、冬の寒さなんて消し飛ぶくらいに温かいのだから。
ふわふわな愛に顔をうずめて、私達は子供のように笑った。
来年の交換会の前には、一緒に編み物のお勉強でもしようかなんて相談をしながら。
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