ふわふわデイズ

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ふわふわデイズ

 最近彼氏が冷たい。あるいは距離を置かれていると感じる。――そういう時、まあ真っ先に浮かぶのはアレだろう、これはフラれるフラグなのでは?だ。  彼氏いない歴二十年オーバーというとんでもない記録保持者の私は現在、やっとできた初彼氏である(みのる)と共に冬を迎えていた。クリスマスに正月、イベントはそこそこエンジョイして来たと思っている。付き合って三年目。私の方はといえば、まだまだ彼にすっかり燃え上がっている真っ最中だ。なんせ“初”彼氏である。大学時代の後輩で二つほど年下。現在卒業論文でスパートかけているであろう彼と、一応は社会人として仕事をしている私。ズボラで取り立てて美人でもなんでもない私にとっては出来すぎた“勉強も料理もスポーツもできる”理想的すぎるほど理想的な彼である。  何が、どこが好きなのか、と言われたら。とりあえず“全部”としか言い様がない。  長身男子がいいとは思っていたが、彼と付き合って小柄で可愛いタイプも全然アリだと思うようになったし。  自分より背が高くて無駄にガタイのいい女がカノジョでも“カッコイイ”と褒めてくれるのは最高にクールだし。  学校の成績も悪くなければ、テニスサークルに真面目に取り組んでいたということもあって運動神経も素晴らしい。あと、手先が器用で料理も非常に得意だ。裁縫だけは昔からダメで、ボタンもつけられないと笑っていたが――私にとってはその程度、取るに足らないことである。というか、私も殆ど似たりよったりなレベルだからおあいこというものだ。 ――まあ、やっぱり女子の方は、多少料理とかお裁縫とかの家庭家系もできたほうがいいようなあ、って思っちゃうんだけどね。人には強要しないけど、私自身の心の問題というかなんというか。  そう、そんな彼と迎えた三年目の冬なのだが。どうにも最近、彼との距離が遠いような気がしてならないのだ。  本人が卒業論文に必死になっているのは知っている。しかし、元々文系でタイピングも頭の回転も速い彼だ、論文を一つ上げるのにさほど苦労しないタイプというのもわかってはいるのだ。忙しいと言っても電話やメールができないほどではないし、何日も全く会えないほどにはならないということは過去の経験で予想がついていることだ。去年のテスト期間でさえ、それとなく遠まわしに誘ってみたら、半日だけデートを許してくれたほどなのだから。  それなのに、時折顔を合わせてもどこか避けられている気がしている。メールや電話ができないわけではないが、随分とそっけない。何かに悩んでいるのか、あるいは私から心が離れているせいなのか。――ひとりの女としては、どうしても後者を考えてしまうのは仕方のないことだろう。 ――やっぱりあれかな……もっと美人で、女子力高い気になる女の子ができたとか、そういうんじゃないかな。  稔に限って、とは思う。彼のことを信じたいという気持ちも当然ある。しかしそこではっきりと胸を張るには、私は私の魅力に自信をもててはいないのだった。自分だけにある武器!というものが私にはない。皆無と言ってもいい。何をやらせてもダメか中途半端のいずれかだ。再三言うように、顔だって美人から程遠い見た目であるのである(多少化粧やらケアやらを頑張ったって、元が美人な女の子には勝てっこないのが現実なのだ)。彼の優しさに甘えて、三年目も無事に乗り切れるとどこかで過信していた、そのツケがいい加減回ってきたのだろうか。  こんなところで倦怠期、あるいは別れ話が持ち上がるなんてごめんだった。ならばそろそろ、こちらも何か仕掛けてみるしかないということではなかろうか。 ――顔はそうそう変えられなくても……いつの時代も女子力アピールってやつに男は弱いはず!どっかの雑誌に書いてあった気がするっ!  思いついたら即実行がモットーの私だ。その日は会社を出るなり、ダッシュでデパートに走ったのだった。いい具合に、もうすぐ彼の誕生日である。女子力をアピールするなら、絶好のアイテムがあるではないか。 
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