ふわふわデイズ

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 *** 「……はあ」  結局。マフラーは完成したものの――あちこち糸が飛び出しまくった、とても残念な出来になってしまっていた。これでは女子力アピールどころか、女子力ナッシングアピールをするようなものではないか。本当に、なんのためにこの半月、死ぬ気で毛糸と格闘したのかわからない。  誕生日当日。どうにか稔とのデートにこぎつけて、現在その彼が目の前にいるというのに。カフェでお茶している今、誕生日プレゼントを渡すのには絶好のタイミングであるはずなのに。どうしてこう、理想と現実は当然のようにすれ違うのか。 「……なんか、元気ないね、芽実(めいみ)。俺と一緒にいて、楽しくない?」 「へ!?え、えええ!?いや、いやそんなことないよ!ないったら!」  しまいには、彼にそんなことまで言われてしまった。困ったように眉を八の字にしている稔を見て、何やってんだ私は!と叱咤する自分である。  彼の心をつなぎとめたくて、彼がどんな高価な品よりも手作りの品を喜んでくれる人だと知っていたから頑張ったつもりなのに。それで精神的にダメージを食らっていては、とんだ自爆ではないか。ましてやそのせいで、彼にまで不安な気持ちを伝染させてしまうなど。 「その、実は、えっと……」  プレゼントは、持ってきてはいる。けれどあんなマフラーを渡してがっかりされたりしないだろうか。むしろ嫌われるだけではないか。思わず口ごもる私に、彼は。 「ごめん」  そう、一言告げた。 「……え?」  一瞬、空気に罅が入るような感覚を覚える私。話の繋がりが見えない。謝られる心当たりもない。もしや、これはフラレるということなのか、本当に――そんな最悪な予想が、数秒の間にぐるぐると駆け巡ってしまった。彼が思い切り、テーブルに頭をぶつけかねない勢いで下げてきたから尚更に。  嫌だ、そんなの――言おうとしたのに、声が出なかった。  こんなところで終わりになどしたくない。もっともっと、稔と一緒に見たいものが、知りたいことがたくさんあるのに、と。しかし。 「本当にごめん。……最近、俺が落ち込んでばっかりいるから……気を使わせちゃってたんだよな?」 「へ?」 「そりゃ、そうだよな。暗い顔ばっかりされてたら、芽実だって楽しくないだろうし。だからその、沈んだ顔を隠せない日はなるべく話したりするの控えようとか、そう思ってたんだけど……」  ちょっと待て、それはどういう意味なのだ。どうやら別れ話を切り出されたわけではないらしい、というのは理解したが。それは安心したが。  ということは、彼が自分を避けていたように見えたのは、悩んでいる顔を見せたくなかったから、気を使わせたくなかったからという――そういう理由だった?
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