檸檬

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 刹那(せつな)、君の感覚は消えた。唇から、手から、君がすり抜ける。慌てて目を開けると同時に、足元に(おびただ)しい数の檸檬(れもん)が転がった。 不思議と一つも(ひし)げることなく、鮮やかな黄色や緑に艶めいている。 君だった物か、とすんなり理解した。驚きも無かったように思う。 机の上に一個だけ、一際(ひときわ)艷めく緑色の檸檬(れもん)が揺れていた。拾い上げて、口付ける。清純に生きているその香りに、心を支配されていく。堪らず(かじ)り付いた。
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