檸檬

1/5
前へ
/5ページ
次へ
 一人椅子に座って、机の上に両肘を付いている。顔を(てのひら)達に預けたまま、自分は窓の端の方から覗く西陽(にしび)(わず)かに目を背け、明るみの中でぼうっと黒板の消し残しを見詰めている。 ()頓狂(とんきょう)(くらい)軽い音を立てて、前の引戸(ひきど)から君が顔を出した。 何をしているの、と問われたらなんと返そうか、と反射的に考えた。何故ここに居るのか、などという事は知る(よし)もない。()れは全く自分のせいではないのだが、かといって特に何もしていない、と言うのも、(ある)いは眠っていた、と言うのも、なんとなく気が引けるというものだ。 そんな事をよそに、何も言わず隣の机にするりと腰かける君。プリーツスカートが少し()れて、華奢(きゃしゃ)な膝下、それと新雪の様な太腿(ふともも)が少々、()に血色を与えられて妙に燦然(さんぜん)とした。決してそういう目で見ているのではない、という誰につくこともない衷心(ちゅうしん)の嘘でさえ、君の瞳を見るとどうにも謝りたい気持ちに変わってしまったりする。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加