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救出作戦
「おい空牙、ちょっとこの書類を風紀に届けてこい」
「や、やだ……」
「はあ? 嫌だじゃねーよ。会長命令だ、さっさと行け」
「風紀、や! いいんちょ、や!」
「空牙は風紀委員長が苦手みたいですね。私が代わりに行きましょうか?」
「ん!」
「おい勝手に喜ぶなバカ、副会長には他の仕事があるだろ。俺はまだこっから動けねーし会計も出払ってる今、暇なのは書記の空牙、お前だけなんだよ」
放課後の生徒会室。
会長の判が押された書類を風紀室へ届けるだけの簡単な仕事だというのに、やけに嫌がるワンコ書記・空牙。
「まあ確かに会長の言う通りですね。大丈夫ですよ空牙、苦手な委員長には直接会わなくても他の風紀委員に渡すだけで構いませんし。ちょっと我慢して書類を届ければ、ね?」
「……う、ん……」
「納得したなら今すぐ行ってこい!」
書類を片手に、悲愴感を漂わせながら部屋を出て行くワンコ書記。
パタン、と閉まる扉を眉間にシワを寄せて睨む会長。
「このクソ忙しい時に何なんだあいつは。でかい図体してるくせに子供か」
「でも本当に珍しいですね、空牙があんなに誰かを嫌がるなんて。普段でも多少の人見知りはしますが」
「あー……まあ、風紀委員長は実際ムカつく野郎だからな。威圧的で人を見下すのが得意な奴を、怖がりの空牙が嫌ったって別に不思議じゃねーだろ」
「……それだと会長も嫌われてることになりますね」
「は!?」
「たっだいま~遅れてごめんね皆、って、あれ。会長と副会長だけ? くうちゃんは?」
ヘラヘラ笑いながら生徒会室に入って来たのは、チャラ男会計。
彼の得意技は空気をあまり読まないこと。
しかし会長たちも既に慣れっこなので気にしない。
「空牙はおつかいだ」
「おつかい?」
「風紀室へ書類を届けに行ってますよ」
「へー……って、風紀室!? だ、駄目だよ行っちゃ! あああ、くうちゃんッ」
風紀と聞いた途端、何故か真っ青になる会計。
そのまま入って来た扉から出て行こうとする姿に、慌てて副会長が声をかける。
「ちょっと、何処行くんですか」
「だだだって早く助けに行かないと、くうちゃんが風紀委員長に食べられる――」
「あ!?」
「だ、だからぁ前々からくうちゃん、風紀委員長に狙われてたの! こないだも空き教室に連れ込まれそうになるのを偶然俺が目撃して、ギリギリ助けたばっかだし」
「それを早く言え!」
ガタン、と椅子を倒し立ち上がった会長。
机の上の書類が散らばるのを気にもとめず、弾かれたように部屋を飛び出して行く。
唖然としたのは一瞬で、副会長と会計も慌ててその後に続く。
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