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「じ…いちゃん!じいちゃんっ…うっ…」
俺が、消えようとするじいちゃんと男に駆け寄り、じいちゃんを抱え起こす。もう既に、意志を持たない人形となり果てていた。
周りから放たれる血のにおいに、俺は嘔吐しそうになる。それでも、じいちゃんの亡骸を抱え、消えないように守ろうとしていた。
「嫌だ!!嫌だ!じいちゃんが…消えてなくなるなんてっ!!
どんな姿をしていてもじいちゃんなんだっ!!じ…いちゃん!!」
しかし、見る見るうちに実体を無くしていくじいちゃんと男の体が光と変わりどんどん天井へと登っていく。
「なん…で消えちゃうんだよ!何でっ…」
「若返りの薬を使うと…心臓が止まれば、浄化されて消えてしまうんだ…。
細胞を最大限に活動させていたから、体は死ねば実体を失ってしまう」
後ろから、じいちゃんが消える理由を教えてくれる人がいた。けれど、俺はそれどころじゃない。じいちゃんが消えてしまう、この世界からじいちゃんの存在が消え失せてしまうようで辛かったのだ。
「消えないで…、消えないでくれよ…。頼むから‥」
もう、じいちゃんたちの体は浄化されてしまった。天へと煽がれ天井よりもはるか上に、実体を通り抜けて上がっていく。
広がっていた血さえも消えてなくなってしまった。俺は、ポツンと真ん中に座りこんでいる。
けれど、何度考えても失ってしまった二人の命を戻すことができないことが気になって仕方がなかった。じいちゃんも優人も、俺がこの道を選ばなければ、生きていたかもしれない。
消極的な考えばかりが俺の思考をめぐっていく。
「貴方がいなければ、世界は動かなかったわ…。確かに犠牲は伴われたけれど、もしかしたらもっと多くの人が犠牲になったかもしれないわ…」
俺の肩にあった白木さんの手の温もりが消え去り、手で俺の前を指さした。そこには、多くの研究者や、監視員が立っていた。
「貴方の守るべきもの2人だけじゃなかった。ここにも守った者はいたのよ」
俺は目の前にいる多くの人々に目を向けた。悲しみに打ちひしがれていて重たかった気持ちが少しだけ和らいだ気がした。
優人、じいちゃん…。俺は確かに大切な人を失った。けれど、此処に来たことで助けられた命もあったんだ。
「俺の守ったもの…」
今の俺の気持ちを言ってしまうと、じいちゃんや優人は俺を恨むだろうか。別に、悲しみを忘れてしまうほどの発見があったわけではない。けれど、俺がこの道を選んだことで救えた命があることを白木さんに教えてもらうことで、重荷が幾分か減った。
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