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12.エピローグ
ペラペラペラ
風に吹かれて読んでいたページが捲られていく。俺は椅子から立ち上がり、窓からの景色を眺めていた。
ちょうど優人が好きだった桜が満開に咲いている。毎年、この季節になると桜が窓から見れるようにと庭に植えた。
優人の成長を見れなかった分、桜はすくすくと成長している。
「真人、今日は何を読んでいたの?」
ドアが開く音がした後、部屋の隅に立っていた美穂が尋ねる。俺にお茶を持ってきてくれた。
「あぁ、昔に読んでいた書物さ。途中まで読んで、放置していたんだ」
「珍しいわね、いつも読破するのがあなたなのに」
「これを読んでいた時期は、君が来た時期でドタバタしていたじゃないか」
俺がクスッと笑うと、美穂もつられて笑う。笑う美穂の方に体を向けて近付いてみる。
な、なにと一言だけ俺に向かって言う美穂は、どことなく緊張していた。
「君のおでこ…何もないね」
美穂の髪の毛に触れ、あったはずの“悪”の文字が消え去った額に触れる。
「驚いたわ。文字が消えるなんてAIDさえも思っていなかったでしょうね」
自分の額に手をあてると、美穂も不思議そうに首を傾げた。今までこだわっていたその字は、もうすべての人間の額から消え失せた。
「研究者が言っていたわ。皆が善悪にとらわれなくなったからでしょうって」
「研究者って、幸助だろ?」
知っている人間じゃないか、と一言言えば美穂は笑って受け流した。
「あの子ったら一人前だからって子供扱いするなって言うのよ」
まだ子どもなのに、と付け足した。
「仮にも一人前の研究者なんだから、そっとしておいておあげよ」
「そうね。だけど、まだ気になって仕方がないのよ」
まるで自分の我が子のように言う美穂が、おかしくてたまらなくなり笑うとパンッと背中を叩かれた。
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