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0.プロローグ
小さい頃の俺は無邪気だったと思う。何も知らなくて他人の額に写る文字なんて気にもとめなかった。
だけど父ちゃんや母ちゃんは、俺に向かってにこにこ笑い話しかける。
『さすがは俺の息子だ!』
俺はそんな両親の言葉が嫌いだった。代わりにじいちゃんと一緒に過ごすことが大好きだった。
俺が小さい頃は、じいちゃんも俺たちと一緒に暮らしていた。休みの日でも父ちゃんと母ちゃんは、良だから頑張らないとといって仕事に行って家を留守にすることも珍しくなかった。
そんな日は、決まってじいちゃんと縁側に座って日光浴をしていた。俺は、この時間が大好きだった。じいちゃんから教えてもらう未知なる世界。(当時の俺は、世界なんてものを理解していなかった)
じいちゃんの話は、俺に世界の魅力を教えてくれていた。
太陽が強く照り付けていた暑い夏のある日、この日もじいちゃんと俺は縁側で日光浴をしていた。向日葵が、うんと背伸びをしてスクスクと太陽に向かって成長している。
『今日は暑いな』
じいちゃんは、一言だけ喋ると太陽を見上げて暫く黙っていた。一粒の汗が俺の額を流れたくらい間があった後に、ゆっくりと俺のほうに視線を向ける。和やかな表情を浮かべて、俺に言い聞かせるように喋った。
『なぁ、まぁくん。普通が一番ええんじゃよ』
そもそも“普通”ってどういう意味なのだろう?
この世界は、皆善か悪かに区別されている。“普通”って、何なんだろう?
俺は、そんなことを考えながらも、理解できてもいないのに頷いた。すると、じいちゃんは数回ゆっくりと頷いた。
『そうじゃ、普通が一番ええんじゃよ。誰だって普通が一番じゃ』
『じいちゃん、普通って何?』
『普通ってのはな…』
じいちゃんが俺に話してくれていたけど、俺はその話を今は覚えていない。
その夜、父ちゃんにも尋ねると、俺もちゃんとは知らないんだ。ただ唯一わかるのは、その“普通”は人によって基準が違うってことだ。と返ってきた。
この世界にはもう既に、“普通”という言葉は消えてしまったらしい。死語なんだと、父ちゃんは言った。
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