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トンネルの中は、もちろん一切の照明器具などなく、所々から地下水が染み出し、健児の頬に滴を垂らした。
足元に注意を払いながら慎重に進んだが、それでも2分かからず、トンネルを通り抜けることができた。
「おお!」
トンネルを抜けた途端、目前に広がった景色に思わず感嘆の言葉が溢れる。
ごくありふれた村のはずであるが、四方を山に囲まれ斜陽に赤く染まった薄霧に沈む、まるで箱庭の様な風情を醸し出している。
「さあ、急ごう」
眼下に見えているとはいえ、麓の村まではまだ距離がある。完全に日が沈む前に到着しなければ、土地勘のない健児では、野宿する羽目になるだろうことは、簡単に想像できた。
もっとも村にたどり着けたとしても、野宿する事になるかもしれないが。
「ま、それもまた良しだ」
健児は、大きなリュックを背負い直し、足早に山道を下っていった。
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