貴方・・・そうね

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 健児はなるだけ明るい声で、柔らかに話しかけたつもりだったが、女の子の表情はピクリとも変わらず、瞳はまるでガラス玉の様に冷たかった。 「よそ者は帰れ!・・・と言いたいところだけれど、貴方の処遇は親方様に決めていただくわ。・・・ついて来なさい」  目の前の少女が話しているとは到底思えないほど、しっかりした口調でそう告げると、彼女は背を向けてスタスタと歩きだした。  完全に主導権を握られた健児は、本来ならばまるで正体のわからない彼女について行くこと自体の是非を考えるべきなのだろうが、それすら忘れて彼女に従って歩き出していた。  「あの〜、僕は神山 健児と言います。大学の3回生で民俗学を専攻しています。もしよろしかったら、お名前だけでも・・・」 一度として後ろを振り返らず、スタスタと進んでいく少女に恐る恐る声を掛けてみた。何故に遙かに年下の少女に、ここまで下手に出なければならないのか。しかし自分でも不思議な程、抵抗はなかった。  すると彼女はピタリと足を止め、振り返らずに「沙耶(さや)」とだけ呟いた。
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