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『別れてください』
『分かりました』
その行間を言葉にして、伝えることができなかった。
言葉足らずで終わる関係を、分かっていながら見送る人間は、どこに、どのくらい存在するのだろうか。
同じ思考回路を持つ者に出会えたら、少しはこの心も慰められるのだろうか。
取り留めのないことばかり考えているのは、"わたし"の方なのか、"僕"の方なのか。
二つの文が並んだページで終わったノート。
傍らに置かれているのは、一本の藍色のシャープペンシル。
一人掛け用のチェアー。
卓上鏡に映った自分が、左右の指で、肩にかかった毛先をいじる。
「もう、戻れないね」
返事はない。
心細くても、部屋に人間は一人しかいない。
選んだ孤独は、まるで最初からそうだったかのような、静寂だった。
「さよなら」
此処からは、一人の人間として生きていく。
行間に何が隠されていたのか。
分からないもの込みで飲み下して、人間は前へ進むしかないのだ。
「大丈夫、だから」
嘯く滑稽な自分を映す鏡を、掴んで投げ捨てる。
ゴミ袋越しに床に当たったそれが、ガシャンと割れる音が、ワンルームに響き渡った。
〈了〉
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