さよならノート

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*** 『別れてください』 『分かりました』  その行間を言葉にして、伝えることができなかった。  言葉足らずで終わる関係を、分かっていながら見送る人間は、どこに、どのくらい存在するのだろうか。  同じ思考回路を持つ者に出会えたら、少しはこの心も慰められるのだろうか。  取り留めのないことばかり考えているのは、"わたし"の方なのか、"僕"の方なのか。  二つの文が並んだページで終わったノート。  傍らに置かれているのは、一本の藍色のシャープペンシル。  一人掛け用のチェアー。  卓上鏡に映った自分が、左右の指で、肩にかかった毛先をいじる。 「もう、戻れないね」  返事はない。  心細くても、部屋に人間は一人しかいない。  選んだ孤独は、まるで最初からそうだったかのような、静寂(しじま)だった。 「さよなら」    此処からは、一人の人間として生きていく。  行間に何が隠されていたのか。  分からないもの込みで飲み下して、人間は前へ進むしかないのだ。 「大丈夫、だから」  嘯く滑稽な自分を映す鏡を、掴んで投げ捨てる。  ゴミ袋越しに床に当たったそれが、ガシャンと割れる音が、ワンルームに響き渡った。 〈了〉 f4256493-6f27-4d4d-b10a-3a21dc868355
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