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ゼェゼェ。はぁはぁ。最近、情緒がおかしい。すぐに怒りのスイッチが入ってしまう。なんて、みっともないのだろう。
「分かってる。おばぁちゃん、主婦は家族の太陽だって言ってる。だから、憧れるんだ。でも、おばぁちゃんも大変だよね。ネットで叩かれまくって傷ついてるよ」
「そんなの自業自得よ。いつも派手なドレスで楽しそうに悪口や皮肉ばっかり言ってる。すごく楽しそうじゃないのよ!」
遥子は毒舌キャラとして活躍する遥子はテレビ番組でこんなことを言って炎上したのだ。
『カラコンはブスな女にとってカツラよ。たがら人前では外せない』
このセリフで全国のブスを激昂させたのだ。
ユウは、ダイニングの椅子の辺りに飛び散ったパセリを拾い上げながら言う。
「おばぁちゃん、最近、本が売れなくてまじで落ち込んでる。思い詰めて、BLやTLのジャンルに手を出そうとしてた」
ユウは汚れた床を綺麗に拭くとすっくと立ち上がった。手を洗い始めている。
「相続税を払うのは大変だよね。ママ達の負担を減らそうとした専門家に相談してるよ。おばぁちゃん、老人ホームに入る為に稼いでるの。家族に迷惑かけたくないって言ってるけど、本当はずっと家にいたいんだよ。ママのおかずは一流レストランよりも美味しいって本気で思ってるんだもん」
「……えっ」
まさか、そんなしおらしい事を言うなんて……。
寝たきり老人になったならば、毎日、オムツを替えることを覚悟していた。それなのに……。嗚呼、それなのに……。嫁の世話になるつもりはなかったのだ。
この時、なぜか胸に穴が開いたかのような奇妙な寂しさを感じてしまった。カクンっと膝が抜け落ちてフローリングにしゃがみ込むと、そのまま、放心したような顔で脱力していた。
ヒューーー、ドカン。ピーヒャララ~
パッと咲いて風の中に消えていく夏の花火を見終えた後のような侘しい感覚が胸に沈殿している。
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