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遥子は、ああ見えて気を使っていたらしい。何てことなんだ!
心の支軸がグラリと崩壊しているかのような感覚になる。ズキズキする胸を押さえて俯いた瞬間、遥子が花柄模様のワンピース姿でトイレから出てきたのである。
「あらやだ、菊枝さん、気分が悪いの?」
目線を合わせて問いかけてくる。遥子の顔のドアップは迫力満点だ。
アイラインバッチリの大きな瞳。真っ赤な唇。豊かな茶色の髪は外国の女優のようにクルンと縮れている。
「す、すみません。サンドイッチを作りなおします……」
正直に言って謝るつもりだった。しかし、遥子は菊枝の手を握っている。
「いいのよ。気分が悪いのなら横になりなさいね。ユウちゃん、あなた、気が効かないわね。ママを寝室に連れて行ってあげなさい」
「うん、分かった。さぁ、ママ、あたしの首に腕をまわして」
「いたたっ。ユウちゃん、そっちは五十肩なのよ」
「ああ、そっか。ごめんごめん」
モデルのように高身長のユウによって、身長五十センチの小柄な菊枝はシングルベッドが二つ並ぶ寝室へと誘われた。菊枝は横たわりながら想った。ユウはバンビのような長い脚の美少女に成長している。遥子の遺伝子の賜物なのだわ。
「おばぁちゃんがお寿司の出前を頼んでくれたよ。ほら、休んで」
家事から解放されてホッとしていた。スーッハーッと深呼吸をすると、徐々に気持ちが落ち着いてきた。
しかし。別の感情が胸をジリジリと疼かせる。
(神様……。こめんなさい……)
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