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あの日、近所の図書館で遥子とトラブルになった男子高校生の一人が屋敷宇宙。宇宙と書いてソラと読む。キラキラネームのソラ君は、高校のサッカー部に所属しているイケメンでジャニーズ顔だ。ソラ君は高級マンションに住んでいる。あの時、すぐに 菊枝はソラ君の母親に対して真摯に謝罪したのだ。
『うちの義母が、おたくの大切な御子息に失礼な事を致しまして、まことに申し訳ございません』
遥子か反省しているなど真っ赤な嘘だった。遥子が言うには、ソラ君に暴力など振るっていないけれど、たまたま黒川に投げた三冊のうちの一冊がソラ君の肩に当たったらしい。
『いえいえ、息子は怪我などしておりませんし、息子達が図書館で煩くしてごめんなさいね。息子も反省しています。息子は、サッカーの試合に出ていまして家にはおりせん。息子に代わってお詫びします』
イケメンのソラ君の母親は宝塚歌劇のオスカル様のような綺麗な顔をしていた。穏やかで常識的な人で良かった。ソラ君の家を出ると、もう一人の同級生の黒川珂衣が暮らすアパートに向かったのである。
黒川の母親は金髪だった。耳には複数の安物のピアス。ガリガリに痩せており、三十路。ギャルと魔女と死神を混ぜ合わせたらこうなりましたという風貌だ。
こういうタイプが苦手な菊枝は、アパートの玄関先でひれ伏すようにして頭を下げたが、相手は完全にブチ切れていた。
『あんたねー。うちがシングルマザーだからって馬鹿にしてんの? どういうつもりよ! うちの息子、鼻が折れそうになったのよ』
整形病院で診てもらった結果、骨には異常がなかったと聞いている。黒川少年はソラ君と共にサッカー部の試合で遠征しているのだから元気になっている証拠と言えるのだが、黒川の母はキリキリした顔で言い放つ。
『おたくの遥子先生ってさぁ、いつもテレビで偉そうなこと言ってるよね。何様のつもりなのさ』
『あの、本当にすみません。これ、少ないのですが、お見舞いの……』
打撲の治療費としては充分な額を封筒に入れていたのだが、黒川の母親は憎々しげに顔を歪めていた。
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