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ここは篠沢街の中でもかなりの人気がある洋菓子店、"彩月"。洋菓子店ということもあり、様々な種類のお菓子が揃えられている。常連客も少なくはない。
「いらっしゃいませー!」
そこで、客に笑顔を振る舞っている蒼。
"彩月"は、蒼の祖母とその夫。いわば、お婆さんとお爺さんが営業しているお店なのだ。...というのも、少し事情がある。
蒼の母は、元々体が弱かった。ということもあり、蒼の母は、蒼を産んですぐ亡くなった。蒼は母の顔をよく覚えてもいないし、記憶もさほどない。
父は、母のことを愛していた。母が死んでからというもの、母が死んだのは蒼のせいだと責めるようになった。...それから、父は家を出ていった。あれからというもの、父とは連絡は取れていない。
そういう事情があり、蒼は祖母達に育てられてきた。蒼は今、21歳で、大学には行かず祖母たちの手伝いということで、客の接客をしている。
「今日のオススメは?」
「あっ、今日のオススメですか?でしたら...」
蒼はふと我に帰り、彩月の常連客の声で目を覚ます。
「このシュークリームですかね。中のクリームはコーヒー味のクリームで、最新作なんです」
「へぇ...それじゃ、このシュークリーム15個で」
「じゅっ...はい、分かりました」
二年前から来るようになったこの常連客は顔が整っており、まだ二十代といった若者だ。いわゆる、"イケメン"の部類に入る人物。おそらく、蒼と年齢は同じか、それより少し上くらいだ。
ほぼ毎日来るたびにオススメを頼み、10個を越えるほど洋菓子を買っていく。買ったものが全て胃に入っていってるかは知らないが、だとしたら大のつく洋菓子好きなのだと、蒼はこの人が来るたびに心のなかで思っていた。
「んじゃ、また来ますね」
「いつもありがとうございます」
蒼は常連客にペコリと会釈をし、店から出ていく後ろ姿を眺めていた。
「相変わらず美貌な人だねぇ」
そんなほんわかした声が蒼の後ろから聞こえる。
「お婆ちゃん...」
洋菓子を作っている厨房から、蒼のお婆ちゃんがひょっこりと出てくる。
「ほんとにねぇ...羨ましいよ。顔面偏差値の暴力みたいな人だよね」
と、ついつい本音をこぼしてしまう。
「蒼もべっぴんさんだよ。お母さんとよく似ているしねぇ」
「そっか...」
その言葉をきき、蒼の心はチクリと、何か針で刺されたような痛みを覚える。
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