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お母さんは...私と似てた、か。と、蒼はそう思いながら、昔のことを思い出していた。
顔は見えず、はっきとしないぼんやりとした記憶。優しい手が、蒼の頭を撫でてくれていた。...それが、蒼にある、唯一の記憶だった。
「ほれ。ボッーとしとらんで、仕事に戻るよ」
「うわっ!?」
お婆ちゃんに背中を思いきり叩かれ、昔の思いでに浸っていたところを現実に引き戻される。
「強く叩きすぎでしょ...」
そんな言葉はお婆ちゃんには届かず、厨房に戻っていってしまう。まだ叩かれた部分がヒリヒリして痛い。だが、蒼は一つ溜め息をつき、仕事に戻る。
これも、お婆ちゃんの優しさだと。蒼はよく知っていたからだ。
緩んだ顔を引き締め、蒼はいつものように笑顔に戻る。
「いらっしゃいませー!」
いつものように、客に笑顔で振る舞う。
__これが、日常だった。
そんな日常が、一瞬にして崩れ落ちていくのは、それから数日たったある日のこと。
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