花田綾

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憲緒さんと練習室から出て、自販機前にある椅子に座る。 「綾、コーヒーおごってやろう」 「ありがとうございます」 ほい、と缶コーヒーをくれた。 「んで、どーだった?」 「あの…ベースの人をなんでメンバーに入れたんですか?」 「あー、皐さんね。あの人はさぁ、俺が昔いたバンドにいてさー、かのこの友達なんだよね」 かのこ、それは憲緒さんの姉のことだ。 「え、それだけ?」 「ま、本人は本気でやってるみたいだけどさ。いやぁどうしてもやりたいって言ってさ~。かのこがバンドをわざわざ作ったんだ。でも、ボーカルいねーしってことで俺が芹亞をスカウトしたのさ!」 「な、ナンパですか?」 「ふん。そんなんじゃないぞ。なんか知らんけど、他所のバンドのボーカルをやってたんだよね~。で、その歌声が刺激的でね~そんでスカウト!」 「なんかよくわかりませんけど、あの歌声がいいんですか?」 「そーだったんだけど、今はなんか、あれだ。ストレスだな。トップクラスに入れなくて嘆いてんだよ…よくわからんけど」 「トップ?」 「芹亞は進学校に行ってて、頭のいい奴はトップクラスに入れるわけだよ。でもだめみたいでさぁ」 やっぱりあの人高校生じゃないか。 「…そうなんですね。今の感情をそのまま声に表してしまうんですね」 「なんか難しいこと言うなぁ。芹亞さぁ、もう少ししたら辞めちゃいそーな気がする」 「お疲れ様です」 「いやいや、あっさりだな。学業とか落ち着けば、芹亞を他のバンドの臨時とかで呼べるけどさ…皐さんはさ、どうすんだよ」 「なにか問題があるんですか?」 「どこのバンドにも入れてもらえねーからな。かのこだって忙しいから、空いてるときしかこのバンドやってねーんだぞ?あの人、ただのOLになったらどうすんだろ。絶対だだこねて、かのこの邪魔するね。かのこと同じとこには行けねーのに」 「じゃあ、あの人が自分でバンド組めばいいじゃないですか」 「できねーよ。まず誰も寄らねぇよ。性格悪いし」 「よく一緒にやれてますね」 「芹亞がいるからなー」 「さっき彼氏じゃないって…」 「あれは照れだな!そうだ!そうだ!」 なんだか憲緒さん、可哀想。いい人なのに。 「綾、お前彼女いないの?いるでしょ?」 「いないですよ!なんで急にそんなこと!」 「可哀想だな。紹介してやるよ。お前のファンをな」 「憲緒さんもファンいるじゃないですか」 「あー、まあね。でも、芹亞が1番なんだよねぇ!決してロリコンというわけではない」 「それはもちろんわかっています!」 「おお、綾は物分りのいいやつだ」 「あ、どうも」 ついつい熱くなってしまった。 「俺のファンは少ないから、お前は自分のファンと遊ぶといいぞ。息抜きにな?」 「息抜きに?憲緒さんは遊んでるんですか?」 「たまーにね?芹亞には言っても動じないけどなぁ」 憲緒さんって、どうしてあの人にこだわるんだろう。突き放されてるのに?それがいいのか?
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