11人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ
憲緒さんと練習室から出て、自販機前にある椅子に座る。
「綾、コーヒーおごってやろう」
「ありがとうございます」
ほい、と缶コーヒーをくれた。
「んで、どーだった?」
「あの…ベースの人をなんでメンバーに入れたんですか?」
「あー、皐さんね。あの人はさぁ、俺が昔いたバンドにいてさー、かのこの友達なんだよね」
かのこ、それは憲緒さんの姉のことだ。
「え、それだけ?」
「ま、本人は本気でやってるみたいだけどさ。いやぁどうしてもやりたいって言ってさ~。かのこがバンドをわざわざ作ったんだ。でも、ボーカルいねーしってことで俺が芹亞をスカウトしたのさ!」
「な、ナンパですか?」
「ふん。そんなんじゃないぞ。なんか知らんけど、他所のバンドのボーカルをやってたんだよね~。で、その歌声が刺激的でね~そんでスカウト!」
「なんかよくわかりませんけど、あの歌声がいいんですか?」
「そーだったんだけど、今はなんか、あれだ。ストレスだな。トップクラスに入れなくて嘆いてんだよ…よくわからんけど」
「トップ?」
「芹亞は進学校に行ってて、頭のいい奴はトップクラスに入れるわけだよ。でもだめみたいでさぁ」
やっぱりあの人高校生じゃないか。
「…そうなんですね。今の感情をそのまま声に表してしまうんですね」
「なんか難しいこと言うなぁ。芹亞さぁ、もう少ししたら辞めちゃいそーな気がする」
「お疲れ様です」
「いやいや、あっさりだな。学業とか落ち着けば、芹亞を他のバンドの臨時とかで呼べるけどさ…皐さんはさ、どうすんだよ」
「なにか問題があるんですか?」
「どこのバンドにも入れてもらえねーからな。かのこだって忙しいから、空いてるときしかこのバンドやってねーんだぞ?あの人、ただのOLになったらどうすんだろ。絶対だだこねて、かのこの邪魔するね。かのこと同じとこには行けねーのに」
「じゃあ、あの人が自分でバンド組めばいいじゃないですか」
「できねーよ。まず誰も寄らねぇよ。性格悪いし」
「よく一緒にやれてますね」
「芹亞がいるからなー」
「さっき彼氏じゃないって…」
「あれは照れだな!そうだ!そうだ!」
なんだか憲緒さん、可哀想。いい人なのに。
「綾、お前彼女いないの?いるでしょ?」
「いないですよ!なんで急にそんなこと!」
「可哀想だな。紹介してやるよ。お前のファンをな」
「憲緒さんもファンいるじゃないですか」
「あー、まあね。でも、芹亞が1番なんだよねぇ!決してロリコンというわけではない」
「それはもちろんわかっています!」
「おお、綾は物分りのいいやつだ」
「あ、どうも」
ついつい熱くなってしまった。
「俺のファンは少ないから、お前は自分のファンと遊ぶといいぞ。息抜きにな?」
「息抜きに?憲緒さんは遊んでるんですか?」
「たまーにね?芹亞には言っても動じないけどなぁ」
憲緒さんって、どうしてあの人にこだわるんだろう。突き放されてるのに?それがいいのか?
最初のコメントを投稿しよう!