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高校にて
「先輩が好きだって言ってたバンドのライブに行こうとしてたんですよ」
解散後の視聴覚室で、俺はそう先輩に話しかけた。先輩はギターを片付けながら、うん、と相槌を打つ。
「友達と行く約束が、ドタキャンされちゃったんですよね」
ピックを専用のケースに入れると、パチン、と音が鳴った。まるでそのケースは、先輩だけが使える魔法の鏡のようだった。
「ひどいね」
先輩はギターのケースを背負って、そう苦笑いした。どんどん口の中が乾いていく。心臓の鼓動が早くなって、苦しくなる。視聴覚室の薄い空気の中、俺は次の言葉を先輩に投げかけた。
「一緒に行きませんか」
ぎゅっと目を閉じた。先輩の表情はつかめない。ガタ、とギターケースの揺れる音が聞こえた。ゆっくり目を開くと、先輩は大きな瞳をこちらに向けて、ふと視線をそらした。
「いいの? わたしで」
先輩がそういうので、俺は思わず大きくうなずいてしまった。すると先輩は、じゃあ、と口を開く。
「一緒に行かせてもらおうかな」
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