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play back ―― am 8:45
レジで時間を費やしてしまった。コンビニ袋を手に、私は急いで会社に帰った。出勤してきた社員達がドッと列をなしていて、2台あるエレベーターはフル稼働している。電車が動き出したのかもしれない。
何度も腕時計を確認しつつ、空きエレベーターを待つ。やっと降りてきた途端、雪崩のように押し込まれる。
――チーン
企画室のフロアのドアが開くと、上着を脱ぐ間も惜しみ、全速力で駆け込んだ。
「課長っ!」
「――えっ?!」
私の勢いに、デスクトップの向こうで、もはや崖っぷちになった被りものが、ピョコッと浮き上がった。
「か、課長っ。これっ――ネクタイ、これで、よろしいでしょうかっ?」
焦りと緊張も加わり、息が切れる。
「あ、ありがとう、美原さん。急がせちゃって、ごめんね」
「いいんですっ。それより、課長!」
私は、コンビニ袋の中から、ネクタイと一緒にレシートを掴むと、彼の面前に突き出した。その有り様は、戦場の殿に早文を届けた飛脚のようであったという――。
「これっ! ネクタイの後っ、必ず、たってみてくださいっ!」
「あ、ああ……」
課長は戸惑いながらも、ネクタイとレシートを手に、トイレへと消えた。
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