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笑わない。見つめない。気にしない。――呪文を3回繰り返す。
「はぃ、プレゼンがぁ、心配でぇ……」
語尾が震える。頑張れ、気合いだ、私!
「いや、感心だねぇ。じゃあ、僕が居なくても大丈夫かなぁ」
デスクトップPCを立ち上げながら、課長は呑気にカラカラ笑う。うう、人の気も知らないで。
「ダメです。そんなこと仰らないでくださいよぉ」
手元の資料を態とらしくトントンと整えて、自分の呼吸も整える。
今日のプレゼンの内容は、バレンタインデーイベントの企画だ。毎年開催しているショッピングモールの人気イベントで、うちの会社が請け負っている。しかし、ここ数年は企画のマンネリ化が懸念されていた。来年以降の継続契約に繋げるべく、斬新な提案が期待されている。今年は、SNSと連動させたお客様参加型のアトラクションを仕掛けるつもりで、半年前からマーケティング部と詰めてきたのだ。
プレゼンするのは私だけれど、先方企業との繋がりが長い鶴見課長が居てくれればこそ、スムーズに事が運ぶというものだ。
しかし――課長の神、もとい、髪がズレている。このまま会社を出る訳にはいかない。
「私、紅茶いれてきます。良かったら、課長もいかがですか?」
「ああ、ありがとう」
何とか理由を見つけて、企画室を出る。給湯室に向かう前に、ロッカールームに駆け込んで、急ぎスマホを手にした。
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