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『鶴見課長の髪ズレてる! どうやって気付かせたら、いい?』
管理職を外した同僚を繋ぐLINEでヘルプを送る。出勤時間の忙しいタイミングが悪いのか、なかなか既読が付かない。
――ピコリン
同輩のユミちゃんが、最初にコメントをくれた。
『えっ、マジで! 鏡見るシチュ作ったら? ネクタイ曲がってますよ~、とか』
なるほど。さすが、アイデアの人、ユミちゃん。
ひとまずスマホをバイブに変えて、ポケットに忍ばせた。給湯室でティーバッグのダージリンをいれる。
「課長、どうぞ」
「お、ありがとう」
「課長、あの……ネクタイ」
ティーカップを置いて、去り際にサラリと言い添えようとした。
「え?」
ブルー地に紺のストライプ。ごく普通のネクタイに、赤っぽい汚れがある。
「ネクタイ、どうされました?」
「えっ、あ、わっ」
指摘されて胸元を見ると、課長は慌てた。
「口紅ですか?」
「あっ、うん。さっきの電車だな。厚化粧のオバサンが目の前に立っていて」
「トイレで洗ってきた方がいいですよ」
よしっ! これでついでに鏡を見てくれれば、ミッションクリアだ!
「そうだなぁ」
紅茶を一口飲んでから、彼は席を立った。私は、心の中で拳を突き上げた。
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