am 7:45

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 鶴見課長が嫌な上司なら、こんなに悩むことはなかったと思う。  社内外に不自然な髪型を晒し、思いっ切り恥をかいてしまえばいい、と割り切れる。  だけど、課長は良い人なのだ。仕事も出来るし、部下の面倒見もいい。失敗しても一方的に責めたりしないし、変なオヤジギャグで場を凍らせたりもしない。大人の対応が出来る、穏やかな性格の人なのだ。  だから、彼のことを表立って悪く言う人はいない。  マーケティング部の女の子達は、彼女達の上司(蒲田部長)を引き合いに出して、『企画部は、上司に恵まれているわねぇ』と羨んでいた程だ。  だから、恐らく本人が気にしているであろうデリケートな部分で恥をかかせたくない。出来ることなら、そっとしておいてあげたい。  だから、皆が出社する前に、気付いて欲しいのに。 「あ、9:30から会議があったんだ。このネクタイじゃマズいなぁ」  えっ。会議?! 「社長もいらっしゃるんですか?」 「いや。でも第三部署は、部長以下が出席するよ。このネクタイはマズいなぁ……」  マズいのは、ネクタイだけじゃありません、課長。  頻りに胸のネクタイを気にする彼を見ながら、ますます焦りがつのる。  部長以下の会議ということは、広報部の堂門(どうもん)課長も居るということだ。あの「拡散屋」の異名で煙たがられている、お喋りオヤジが。
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