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am 8:05
――ガタン
課長は、突然席を立った。
「ど、どうされたんですか?!」
「あ……いや。こうなったら、近くのコンビニで、間に合わせのネクタイを買ってくるよ」
「ええっ!」
ダメです! このフロアは企画室と資料室しかないから、他部署の社員と会う可能性は低いけど、エレベーターだって、社外だって、誰に見られるか分からないのにっ!
……と、言えたら、どんなに楽だろう。
「課長。私が行って来ます。皆から、何か連絡があっても困りますので!」
「美原さん、プレゼンの準備のために、わざわざ早く出社したんだろ。それは申し訳ないよ」
ああ。こういう人だから、何とか庇いたくなるんです。
自然と微笑んで、私は立ち上がっていた。
「いいえ。きっと、虫の知らせだったんですよ」
これは本心。だって、普段の私なら皆と同じ。今頃、電車で缶詰めになっていた筈だ。
「ありがとう。じゃあ、頼むよ。君も、何か買って良いからね」
そう言って課長は、私に5000円札を渡した。
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